墓場まで持っていけ

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 はー、間に合った、良かった。そこの君、待って。まだ飛び降りないで。聞いてほしい話があるの。……え? いやいや、邪魔しにきたわけじゃない。全然違うよ。あたしの話が終わったらちゃんと死なせてあげるから、安心して。  またまたそんなこと言って。時間ならあるでしょ? 人生捨てようとしてる人が、たかが十数分のことでイライラしないの。今すぐ死ぬのも、あたしの話聞いてから死ぬのも、結果は一緒。君の人生はここで終わるんだから、最後くらい見ず知らずのあたしに付き合ってくれたっていいじゃん。  うそっ、あたしのこと知ってんの? しかも同じ会社!? あたしは君のこと知らないんだけど。そっか、「最近入った男の子」って君のことだったんだ。挨拶回りしたの? うーん、その日は有休使ってたし、君の部署とは違うフロアだから分かんないや。中途入社で会社になじめなくて嫌になったんだ、大変だね。……いやいや待って、なんであたしが君の話聞く流れになってんのよ。あたしだってねぇ、いろいろ溜まってんの。今から死ぬ人の悩み相談なんか乗ってる余裕ないの。  あ、そうだ。君の最初の質問に答えてあげるね。……覚えてない? 「何しに来たんだ。邪魔するな」そう言ったじゃない。あたしはね、君みたいな人をずっと探してたわけ。  生きてるといろんな愚痴とか話したいことがたくさん溜まるじゃん。その中にさ、親とか友達とか同僚とかには言えないことってあんじゃん。「わたし、口かたいから大丈夫」って言われてもいまいち信用できないっていうか、その人がたえきれずにいつか他の人に喋ったらどうしようって一生思いながら生きてくことになるじゃん。そこであたし、ひらめいたの。
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