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「僕がきちんとあなたの秘密を墓場まで持って行くか、見届けなくていいんですか?」
扉を開けて屋上からビル内に戻ろうとした時、背後から大きな声がして腰が抜けそうになった。振り向くと、先ほど話を聞いてくれていた青年が大股でこちらにやってくるのが見えた。気弱そうな男の子という印象が、一気に覆る。
「なんで。死んだんじゃないの? まさか、お化け?」
「失礼な。まだ死んでません」
あたしの目の前に立った彼が、眉を寄せた。
「え、死なないの?」
ぽろりと口から漏れた言葉に、彼の表情が一層険しくなる。
「僕も人間ですから、いずれは死にますよ。ただ、自分で死を選ぶのはやめました。自然と命が尽きるのを待ちます」
「どうして」
あたしの言葉に、彼が不満げに目を細める。
「そんなに僕に死んでほしいんですか?」
「そりゃそうでしょ。そのつもりで洗いざらい話したんだから。どうして死んでくれないの」
彼が深い深いため息をついた。
「誰かに聞かれたら、あなたが逮捕されますよ」
それは困る、と口をつぐむと、不意に彼が唇の端を釣り上げる。あたしを馬鹿にするための笑みだった。
「さっきの問いに答えてあげましょう」
「え、なんだっけ」
「もう忘れたんですか? 『どうして死んでくれないの』とあなたは問いました。僕はこう答えます。『あなたみたいな甘ったれで図々しい自分勝手なお子ちゃまが平気な顔してのうのうと生きていくと思ったら、死ぬのが馬鹿らしくなった』と。どうです? 疑問が解けてすっきりしたでしょう?」
「はあ!? さっきまでの話のどこからあたしが『甘ったれ』で『お子ちゃま』って解釈になるのよ! 全然平気じゃないし! こうやって知らない人に愚痴ってようやく人の形を保ってるのに」
反射的に握った両手がブルブルと震えた。それを見た彼が心底おかしそうに大口を開けて笑う。
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