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きっと沖田さんも初めから知っていたんだ。
だから、剣術道場の師範でもあるという局長の一番弟子として、新選組の一番隊隊長として、律儀なくらいの挨拶をしてくれた。
それからのわたしは言うまでもなく、知れば知る程、関われば関わる程、新しい面を知るたびに、想いを深くしていった。
恋に落ちた、と自覚したあの日よりもずっと、ずっとずっと熱い気持ちで、沖田さんが好き。
いつも朗らかで、冗談ばかり言って周りを笑わせていた。隊士の皆さんにも、お世話になっている八木家の皆さんにも、京市中の皆さんにも、誰にでも優しく、決して声を荒らげることなんてなくて、常に丁寧な言葉でお話しをしていた。新選組随一の斬り込み部隊である一番隊を率いて隊務に出る一方、非番の日には近所の子ども達と遊んでいた。目が回るような忙しさの日もあったけど、会うと必ず明るく声を掛けてくれた。
そうして、一年にも満たなかったけれど幸せな日々が続いていた。
父が屯所に来て、近藤さんに呼ばれて。あの鬼瓦みたいな顔を優し気な笑みに歪ませていた日に、すべての景色が壊れていくような錯覚に襲われた。
近藤さんは、ある新選組隊士を養子としている。
谷万太郎さんの弟で、谷昌武さん改め、近藤周平さん。
自分に万が一のことがあった時、天然理心流は沖田さんに、新選組は周平さんに任せると、故郷への文にも記していたらしい。
わたしには、その周平さんのところへ嫁に来てほしいとのお話しだった。
「コウ!」
大声で呼ばれる声も遠くに聞こえるくらい、わたしは部屋を飛び出していた。
周りすべてが、そのつもりだったんだ。
いずれ新選組の局長になる周平さんの家内になる者として、新選組を支える者として、少しでも隊士の皆さんとそして周平さんと打ち解けられるように、ここへ呼ばれたんだ。
周平さんが嫌いとか、新選組が厭とか、そんなことを言っているわけじゃない。
ただわたしには。好きで好きでどうしようもない、わたしの運命のひとがいる。
もしも、周平さんと結婚したら、このままずっと、沖田さんの側にいることもできる。
でもこんなに近くで、他の男のひとの妻として、ずっと生きていかなければならないの?
そしてもしも、沖田さんが他の女のひとと結ばれたら。
きっと、耐えられない。確かに指と指とを繋いでいると思った糸を断ち切られては、生きていけない。
闇雲にと思われる程に猛然と走ったわたしは、屯所敷地内の道場に着いた。
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