商人と黎明

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 中央都市からの来訪者達は、この村でしか取れないルコル樹の実に目をつけ、村民に不当な取引を持ちかけてきた。それを防いだのが私だ。この村で生まれ育ち、行商一筋三十二年、伊達に五十の町を渡り歩いてきたわけではない。  此度再び海を越え、ルコルの実を売り込むことになった。大陸にはきっと、未開の寒村と侮り搾取を目論む敵がわんさといるだろう。相手にとって不足はない。必ずやこの村に豊かさをもたらしてみせよう。できれば自分の富と名声も。  暁の空へ、村人達が銛とたいまつを掲げた。航海の無事を祈る船出の儀だ。炎は朝焼けに相まって赤々と燃え上がる。郷土愛に商人の誇り、それとちょっとばかりの野心を胸に、今、大海へ漕ぎ出す。
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