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目が覚めたら
決して恵まれた環境ではなかったはずだ。前世の僕だというヒナタという人は、終ぞ生みの親を知らなかったけれど、こんなにもずっと近くにいて、ずっと自分をみてくれて、傍にいてくれる人に拾ってもらって生活が出来たんだ。
ヒナタの喜びも、そして、そんなヒナタを失ったこのナツキという男の悲しみも計り知れない。仲がいいどころの騒ぎじゃない。文字通りの意味で一生を共にしたんだ、この人たちは。
朝方、僕は自分が涙を流している事に気付いて目が覚めた。涙を拭い、寝返りを打って、ナツキの方へと身体を向ける。
「……っ。ヒ、ナタ……いかないで、くれ……」
ナツキがもごもごと何か口にしたあと、はっきりとした言葉でそう寝言を言いながら僕の手を握ってきた。僕は何気なくそれを握り返してみる。
話している時はあんなにぶっきらぼうな態度だったのに、寝顔は随分と幼くみえる。話しを聞く限り、この男は100年以上生きているらしいのに。
子供のようにすやすやと眠るナツキをみて少し口元が緩みそうになった時、ナツキが急にハッとなって目を覚ました。
「……! 悪い、寝ぼけてた」
そう口を開いて、握っていた僕の手をとっさに離そうとする。何故だか自然と、手をもっと強く握って離れないようにした。そんなことされると思ってなかったのか、ナツキが少し驚いたように目を見開いた。
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