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家に帰るまでが遠足、なんて言い出したのは誰だろうか。それはきっと、夏祭りでも同じことが言える。
家に帰るまでが夏祭り。家に着いてバイバイするまでは、この胸の高鳴りは収まらないだろうから。
きっかけは突然だった。
去年同じクラスで、好きになってしまった君。
たまたま部活の帰りの時間が重なって、駅まで一緒に歩いている途中、夏祭りの開催を知らせる貼り紙を見つけた。
色々な屋台や花火もあるらしい。目を輝かせた私に、君は言った。
『一緒に行く?』
驚いて顔を向けたときにはもう君は顔を逸らしていて、でも赤くなった耳は見えた。
胸に溢れるのは、戸惑いとそれ以上の期待。精一杯の返事をして、その後のことはよく覚えていない。
そして、当日。
お互い浴衣で待ち合わせた。緊張で待ち合わせ時間の15分前に着いた私を見て、5分前に来た君は驚いていて、慌てつつ、浴衣を褒めてくれた。
それだけで嬉しいのに、一緒に屋台を回って、わたあめを食べたり、それから射的で君が小さなぬいぐるみを取ってくれたりもして。
途中、クラスメイトに会った。冷やかされて、どうしたらいいかわからない私を、彼は上手く庇ってくれた。君とのことで冷やかされるのも、私は少し嬉しかったけど。
人気の少ない神社の裏に君が連れて行ってくれて、2人きりで花火を見た。
告白は、できなかった。精一杯すぎて。
けど、その日見た花火は、今までで1番綺麗だった。絶対忘れたくないと、強く願った。
祭りの会場は私も君も徒歩で行ける場所だったけど、ちょうど反対の位置にお互い家がある。じゃあ、と手を振りかけた私に、君が言った。
『送っていってもいい?』
そして今に至る。
何度目だろう、チラリと隣を見ると、間違いなく君がいる。
それが信じられなくて、夢じゃないかと思った。
けど、こっそりつねった頬はちゃんと痛い。
ずっと頬が熱いのは、つねったせいだろうか、それとも。
「……」
何か言わなきゃ、と思う。せっかく2人きりでいるのに、私は最後の勇気が出ない。
ずっとこのままでいられたらいいのに。
ずっと、君の隣で歩けたらいいのに。
生暖かい風が2人の隙間を通り抜けた。私はふいと目を細める。
学校の帰り道に、君の背中を見つけることがあるのだ。
けどそれは、私が勇気を振り絞る前に、気付けば遠くに行っている。その度、もどかしさや自分の弱さに潰れそうになる。
いつもは歩幅の差から追いつけたことがない背中。それが、今は私に合わせて隣にいてくれる。
言わなきゃ。この手がまだ、君に届くうちに。
「あのっ……」
小走りで少し進み、彼の前に立ち塞がった。
「待って!言わなきゃいけないこと、あるの……!」
君は、驚いた顔で、でも立ち止まってくれた。
「ん?どうしたの?」
私を見る顔がいやに優しく思えて、胸がきゅうっとなる。
でも、ちゃんと言わなきなきゃ。
君の目をまっすぐ見つめて、息を吸い込んで。
「私っ、ずっと、君が……好きだったの……!」
ついに、言ってしまった。
驚いた顔の君を見ていられなくて俯く。
ギュッと胸を握りしめて返事を待っていると、私の名前を呼ぶ君の声が聞こえた。
おずおずと顔を上げると、君の優しい笑顔が視界に飛び込んできた。
家に帰るまでが夏祭り。その夏祭りはもうすぐ終わる。
けど、胸に溢れるときめきは、夏が終わっても、これからもずっと消えてくれそうにない。
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