入学式

3/5

7人が本棚に入れています
本棚に追加
/28ページ
「僕の名前は咲花 凍歌。君はなんていうんですか?」 「…僕は深月(みずき)。名字は、ない。」 僕の顔から少し目を背けながら深月くんは言う。 「そっか〜。とってもきれいな名前ですね。」 「…僕は嫌い」 この子のことは正直良くわからない。初対面だから、ってこともあるけど、表情の変化とか、全然わからない。 「そうなんだ…って、あれ?深月くん?」 「…会場こっちだよ」 あれ?あれれ?こっちで合ってると思ってたんですが… 「…もしかして、方向音痴?」 ほ、ほうこうおんち? 「い、今まで屋敷から出たことないからあんまり慣れてないのかも?」 あ、零はと言うと、寮部屋の準備をしに、先に寮に行ってるらしいです。 「…外に出たことないの?」 「うん、そうなんですよ〜」 深月くんは何故か戸惑ってるみたい。 「…親が許してくれなかったの?」 「う〜ん、そうとも言えるかも。でも、ちょっとは憧れていたけど危ないところだって知ってたから。きっとお願いしたら護衛の人いっぱい連れて外行けたかもしれません。」 みんな…こんな僕のこと好きですからねぇ 「…ならいいけど。」 「心配してくれたの?ありがとう。」 そう言って笑うと、深月くんはちょっと目をそらした。 「…そんなんじゃないけど」 「そっか〜。まぁでも、僕のことに興味示してくれたのは嬉しかったです。」 初めての友達は、深月くんになるでしょうか? なれるといいな。 「…なんでそんな僕に構うの?」 「なんでって…う〜ん、理由なんてないんじゃないですか?」 なんとなく、仲良くしたいなって思ったから。 「め、迷惑だったら言ってくださいね?」 「…いいんじゃない。」 …いまのはどういう?理由がないこと?一緒に話してもいいってこと? 「あれ?」 「…こっちだよ。…凍歌さん、僕が居ないとたどり着けなかったんじゃないかと思うよ。」 な、なにおう…そんなに迷うほどお馬鹿さんじゃないし…いや、実際迷ってますが。 「…着いた。いや、どっちにあると思ってんの?」 「う?あれ、こっち?」 深月くん、溜息ついてる…怒らせちゃいました? 「…怒ってない。」 「わわ、えすぱー??」 そういえば、変な人、いつの間にかいなくなってますね。 「さっきはありがと。」 「…何が?」 「あの…変な人に絡まれてた時。」 「…僕が勝手に助けただけ。」 「それでも、お礼は言うものでしょ?嬉しかったし、かっこいいなって思いました。」 僕の思っていることを伝えると、深月くんは嫌そうな顔をする。 感情はわかるけどやっぱり何考えてるかわかりません。 「…学校ではあまり僕と関わらない方が良いよ。」 「どうして?」 「…他人を巻き込みたくないんだ。」 なにか事情があるんでしょうか? 「…よくわからないけど、君がそれを望むならそうします。」 「…そう。」 それにしても、なにか思い詰めていることがあるんでしょうか。ずっと苦しそうな顔をしてます。 「そうだ、深月くんって呼んでいいですか?」 「…別にいいよ。呼ぶ機会ないだろうけどね。」 「深月くんって、いい香りがしますよね。」 「…は?」 「なんか、甘くて美味しそうな香り。」 よくわからないって顔をしてます。 はっ!急に香りのこととか言ったら変態って思われるかも… 「ご、ごめんね急に!き、気持ち悪かった?」 「…別にいいんじゃないの。」 あ、相変わらず何考えてるかわからないです。 「…入学式始まるよ。早く中入るよ。  …どっち行くの?こっちだってば。」 呆れたような顔で見られちゃいました。ごめんねぇ、 【新入生はこちら】 そう書いてある看板に向かって二人で歩いていく。
/28ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加