椎名くんは変わらない

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「あ」  突然、何かに気がついたような顔つきで、友達の椎名くんが呟いた。 「いたぞ、シロイルカ」 「えっどこどこ?」 「こっちこっち」  椎名くんが誘導しようとしてさりげなく私の手を握る。  今日、これで三回目。  数えている私も私だけど、友達とはいえ普通に女子の手を握る椎名くんも椎名くんだな。  海の中を思わせる暗めの青い壁と天井に、ライトアップされた水槽。  この水族館で人気のシロイルカは子供連れの家族が前列を独占中だ。それでも水面に近い位置で体を縦にして手を振るみたいに泳いでくれているから、ぷにゅっと潰れたクリームパンみたいな愛嬌のある顔を見ることができる。 「かわいー」 「藤川の可愛いって、全然心がこもってなさそうだよな」 「そんなことないよ? 私いま、すごいハイテンションだもん」 「マジか。全然そんな感じないわー」  感情分からなくてごめんなさいね。  椎名くんが分からないのも無理はない。  私も最近ちょっと分かんないしさ。自分自身の心の置き所ってやつが。
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