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「えっ……?」
なになに、どうした椎名くん。
私はゆっくり視線を戻す。
椎名くんは私をまっすぐに見ている。なんかやけに男らしいぞ。
「本当の……理由?」
「藤川にはもっと早くちゃんと言おうと思っていたんだけど……なかなか言う勇気なくてさ。もし、気持ち悪いって思われたらどうしようとか、余計なこと考えちゃって」
椎名くんの瞳に水槽の煌めきが反射している。
シロイルカの隣の水槽で、ちょうどマイワシの大群が流れ星のように私たちの横を通り過ぎた。北欧のオーロラを思わせる不規則なウェーブで回遊する魚たち。その動きは予測不能すぎて、目を奪われそうになる。
だけど、今はもっと見ていたいものが目の前にあって、そっちの煌めきの方に目が離せない。
さっきまで死んでいたはずの目の内側で、決意という名の導火線に火がついている。それが今にも爆発しそうになっているから。
緊張に耐えられない。
「椎名く──」
「ずっと前から、好きだったんだ」
私と同時に発した彼の言葉で、私は突然、被爆した。
激しい爆風によろけそうになったその時、とどめを刺すかのように椎名くんが言った。
「好きなんだ……オオメンダコのこと」
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