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ため息をつく。水槽に映る私の顔がやけに暗い。
椎名くんはオオメンダコに夢中で、私の表情に全然気づいてない。
悔しいな。
いつもそう。
私ばっかり、振り回されてさ。
「でも、藤川は見たがってたシロイルカに一瞬で飽きてたじゃん。クールな奴だよな、まったく」
椎名くんが背中越しに笑う。
「椎名くんのタコ愛ほどではなかっただけだよ。ちゃんと感動してました」
「ホントか?」
椎名くんは私を振り返り、ニヤッとした。
「本当はシロイルカとかどうでも良くて、藤川は俺と一緒にいたかっただけなんじゃねーの?」
私のギクッとした顔が水槽に映った。
「は……っ⁉︎ 何バカなこと言ってんの──」
もう、こいつはいっぺんぶん殴ってやろうかと思った時だった。
椎名くんの真顔が近づいてきて、私の唇が当たり前のように奪われた。
う。
うわああああああ!!!
あまりの衝撃に、私の魂がオオメンダコのようにふわふわと空を飛んだ。
抜け殻になってる私から唇を離して、やけにイケメンな顔をした椎名くんが至近距離で微笑む。
「……今の顔は可愛かったかも。オオメンダコの次くらいにだけど」
悲報。
私のキス顔、オオメンダコに負ける。
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