椎名くんは変わらない

6/9
36人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
 ため息をつく。水槽に映る私の顔がやけに暗い。  椎名くんはオオメンダコに夢中で、私の表情に全然気づいてない。  悔しいな。  いつもそう。  私ばっかり、振り回されてさ。 「でも、藤川は見たがってたシロイルカに一瞬で飽きてたじゃん。クールな奴だよな、まったく」  椎名くんが背中越しに笑う。 「椎名くんのタコ愛ほどではなかっただけだよ。ちゃんと感動してました」 「ホントか?」  椎名くんは私を振り返り、ニヤッとした。 「本当はシロイルカとかどうでも良くて、藤川は俺と一緒にいたかっただけなんじゃねーの?」    私のギクッとした顔が水槽に映った。 「は……っ⁉︎ 何バカなこと言ってんの──」  もう、こいつはいっぺんぶん殴ってやろうかと思った時だった。  椎名くんの真顔が近づいてきて、私の唇が当たり前のように奪われた。  う。  うわああああああ!!!  あまりの衝撃に、私の魂がオオメンダコのようにふわふわと空を飛んだ。  抜け殻になってる私から唇を離して、やけにイケメンな顔をした椎名くんが至近距離で微笑む。 「……今の顔は可愛かったかも。オオメンダコの次くらいにだけど」  悲報。  私のキス顔、オオメンダコに負ける。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!