第一章 新しい友達

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ーーSide 緒方 光高  11月に入って、僕にも環境の変化が訪れた。 「次の講義一緒だろ! 一緒に行こうぜ、緒方」 「良いよ」  僕は大学の構内で誰かと行動を同じくすることはなかったのだが、最近はこの松野はじめと一緒にいることが多い。  180cmの僕と比べると少し背が低い松野は、文学部の陽の者のオーラをまとっている。爽やかな振る舞いとプリンのない綺麗な茶髪、そして物怖じも人見知りもしない圧倒的なコミュ力が松野の強みだ。サッカーだとか野球だとかスポーツが好きで、誰とでも打ち解けられるはずなのに、最近はコミュ障の僕にやたらと構ってくる。 (嫌な気はしないから良いけど)  本来であれば住む世界が交わることのない僕たちだ。しかし、こうして話しかけてくる松野からは僕に対しての悪意や敵意は感じない。むしろ、同じ文学部生だからか何故か興味の方向が合うこともあり今は割と僕も気を許している。 「ドイツ文学、今日は若きウェルテルの悩みか。恋に悩める男は辛いね〜。あ、そうだ。緒方って彼女とか居るんだっけ」 「いない。松野は?」 「最近別れた!」 「......。」  とはいえ、僕のコミュニケーションスキルはそう高くはない。こういった咄嗟の時に思いやりのある返しができないのは、そろそろどうにかするべきだとは思っている。 「いやいやいやいや、俺気にしてないから! ってか話題振ったの俺なんだしお前が気にすんなって。むしろ学部で結構話題になってたから知ってると思ってたし」 「悪い」  松野は人の良い奴だ。  復習がてら先週配られたレジュメをパラパラと捲る松野は、困ったように笑った。
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