第五章 波乱のカルピス

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 おそらくは真がまとめたであろう文章を里依さんが解説してくれる。 「え〜っと。曰く、松野くんと環ちゃんは、学部を超えたアツアツカップルとして、認知されていたそうです。学内外を問わず2人で手を繋いでいるところが目撃されたりしていたと。ところが突然、構内で派手な痴話喧嘩をして電撃破局。そしてその様子がSNSで拡散された後、まとめサイトにまで書かれてしまいーー環ちゃんは学校に来なくなったそうです」 「それは知らなかった」  SNSのコメント欄にも2人についてあれやこれやと書かれている。「別れて清々した」「この2人仲良かったのに」「この修羅場見てたwww」。中には2人の実名や学部学科までを晒す投稿があるぐらいだ。 「こんな動画、酷いです。何がきっかけかはわかりませんが、当人たちの問題を面白おかしく茶化して拡散するなんて」  誰かの恋愛関係が誰かの娯楽になることはこの世の中において往々にしてあり得ることだ。しかし、それが当人にとっては耐えられないときだってある。 (実際、耐えられなかったのか)  だからこそ、松野は大学の噂や交友関係から浮いている僕に近づいた。きっと松野が隠したかった「犯人」はこの動画を上げた人物だ。松野はこの犯人が元居たグループの2人だと思って疑心暗鬼に陥った。既存の人間関係を切ることでなんとかやっていこうとした。  一方で環さんは友人グループにも居られなくなり、元彼にも頼れない。孤独になってしまった彼女が大学に来なくなってしまったのなら、きっと先日僕が見たものは見間違いじゃない。 「やっぱり、環さんは大学を中退するつもりなのかも」 「え?」 「里依さん、あの燻製ベーコンの写真見せて」  僕は里依さんの持っている写真をスマホで撮って拡大した。文字は見辛いけれど、辛うじて読める。 「見て。環さんの持ってるプリント、退学届だ」 「え! 環ちゃんはそこまで追い詰められていたんですね」  大学を辞めて、資格だけでもスクールで取りに行こうとする環さんは、きっとそこに色んな葛藤があったはずだ。  そんな誰にも頼れなかった彼女が、唯一頼りにしていたのはきっと里依さんでーー。 「私、何にも知らずに環ちゃんに酷いこと言ってしまいました。環ちゃんが新しい未来に向かって頑張ろうとしていたのに、思い出させるようなことを言って」
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