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ーー数十分後、焼き目のついた燻製ベーコンのステーキを前にした蒼馬君は雄叫びをあげました。
「おぉぉぉぉぉ!! いただきます!」
肉厚のベーコンは両面がカリカリになる手前まで火が通してあり、シンプルながらもボリューミーな一品に仕上がったようです。漂う香りは一級品、付け合わせのレタスやトマトが華やかです。
「蒼馬、家に紙皿しかないとか」
「基本的に自炊しないからって、紙コップと紙皿、割り箸で生活してるとかSDGsの団体に絶対に怒られますよね」
フライパンや鍋は以前私が持ち込んでいたものがそのままあったから良かったものの、蒼馬くんは本当に現実世界の事象に興味がないようでした。
「うまひ!!! 最高!!ーーそれで、何の用? オレは今機嫌が良いから話くらいは聞いてあげる。まぁ、無理だったら諦めてもらうし全然帰ってもらうけど」
「ネット上の誹謗中傷を消して欲しいんです!」
蒼馬君は私がスマホで見せたページを見ると、フフンと鼻で笑いました。
「ソレ弁護士の仕事だから。お金払って頼めよ。ま、時間はかかるし確実性はないけど」
「そこを何とか! うら若き乙女の将来がかかっているんです!」
「エリーはうら若き乙女って言える年かよ」
蒼馬君は私のことをエリーというあだ名で呼びます。
「私じゃないです! いえ、私はまだ若くてお姉さんな社会人の先輩ですが!」
「オレはしがないクリエイターだし? そんなクラッカーまがいなことはやってないし? 天に誓って嘘は言ってないし?」
私は数ヶ月前、この部屋の掃除に来たときのことを思い出しました。
「......この部屋の奥、本棚で隠してありますけど、もう一部屋あるんですよね。非常に後ろめたい部屋が」
「チッ」
蒼馬君は何故か私ではなく緒方さんの方に両手を合わせます。
「ここはシェフの極上デザートで手をうつぞ!」
「言い方」
「シェフが極上デザートを作ってくれたら一時間でやります! やらせてください!」
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