第六章 粛清のアップルパイ

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*  一時間後、出来たてのアップルパイを口いっぱいに頬張りながら蒼馬君はPCと同期しているらしいiPadの画面を見せてきました。 「ほら、削除させた。このIPアドレスの理学部2年のコイツと、後は掲示板運営してる他県のオッサン。二度としないってさ」 「ネットに匿名で書いた相手までわかるなんて、相変わらずどんな手を使っているんですか?」  蒼馬君はお皿に添えられたバニラアイスを豪快にアップルパイの上にかけるとそっぽを向きました。 「企業秘密。ーーシェフ!! 今日も美味しいです!! オレが将来、億万長者になったらご飯作りに来てくれる?」 「料理人にはならない。趣味だから。それだけ稼げるなら有名な人雇えると思う」  緒方さん曰く、趣味と仕事は違うらしく、将来的に料理は仕事にはしないそうです。 (勿体ないですよね)  この展開を予想していたらしく、冷凍したパイシートや炒めリンゴを持参して、解凍して焼くだけにしていた緒方さんは、一体何を目指しているのでしょうか。 「じゃあエリーと結婚してオレの親戚になって?」 「...…!?」 「むぐぐっ」  自分の分のアップルパイを頬張りながら、パイ生地のサクサクを味わっていたところ、蒼馬君からのトンデモ発言に咽せそうになりました。  緒方さんはこういった話題に耐性がないので、社会人のお姉さんとしてはやめてほしいところです。 「なーんて。エリーと結婚するなんて現時点でデメリットしかないもんな。わかる。不良債権のエリー。ドジだし、アホだし、すぐに転ぶし。元気と顔だけが取り柄なのに、問題ばっかり起こすから。シェフにはもっと良い人が居るって」 「私、そこまで酷くないです! こんなに頼れる従姉に対してその扱いをするなんて、七星パパに言いつけますよ!」 「そういう所だよバーカ」  10歳近く歳の離れた従弟にも関わらずこの言い草。相手が中学2年生でなければ、もっと怒っていたところです。
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