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06.塩梅
「あのさ……もうちょっと練習しとこうかなって思って……」
あの初依頼を受けてから1週間。宿に泊まって自堕落な生活をしていた俺だが、思うところもあってフランを呼び出しそう切り出した。
「まあいいんじゃない?私も懐が心許なくなってたし……」
そんなバカみたいなことを言ったフランを見て……納得した。なんかめっちゃ高そうな服を着ていた。きっとあぶく銭だと散財したのだろう。それも仕方のないことだろう。所詮お嬢様のフランにとっては実際あぶく銭なのだし……
「やっぱり毎回あんな地形に被害を出すわけには行かないと思うから、加減というものを弁えたい……と、シャドーは思っているのよね?」
「まあその通りなんだが……」
釈然としない思いがある。
前回のゴブリン村では依頼達成で報酬は全額もらったが、あわや没収されるところであった。そのエリアを活動の場にしていた木こりが「森が……死んだ……」と白目を向いて膝をついていたのを、状況説明で呼び出された俺は、胸が張り裂けそうな思いで見ていた。
そして一緒にいたフランが「どう?すごいでしょ!」とふんぞり返っている様を見て、殺意の波動を感じた。
そもそも、あれはフランが無理な依頼を取ってきた結果であって。俺悪くない。と思ってはいる。
とはいえ、周りに被害を出さない程度で魔物の力と均衡する程度の塩梅というものも必要だと思う。ゆえに練習が必要だと。しかし一人では練習にならない俺のクソスキル……ああもどかしい。
「よし。じゃあここから10キロ南にある火山地帯。そこにはワーウルフという狼系の魔物が居る。その毛皮と肉は常時依頼だから狩れるだけ狩ろう。その為に魔法の袋も買ってきた」
「へー色々考えてるんだね。ってか魔法の袋って高くない?私も欲しかったけど買えなかったから、まあいいかなってあきらめた」
「ちょっとした部屋程度の小さい奴だからね。でもこれで手持ちほぼなくなった。なんだよ40万って。だから丁度良い塩梅の練習と実益を兼ねる。そう言うことだからフランも頼む」
フランはこちらににっこりと笑顔を向けてサムズアップした。
しかし……相変わらず可愛いのだが、若干太やかになっている気もする……いや気のせいか?でも散財は装備だけか?いやそもそもフランは実家で贅沢の限りを尽くせるお嬢様……今ならわかる!やはり少し太やかになっている!
「後、フランちょっとふtごふっ!」
「目線で察するコミュニケーション!乙女に何か言いたいことあるなら言ってもいいけど死ぬ気で来いよ!」
「は、はい……」
即座に何かを察知されたようで、改良版『反撃』が俺の腹筋を屈服させていた。というか『反撃』って向かってきた攻撃をはじき返すスキルではなかったのだろうか……
◆◇◆◇◆
気を取り直して火山地帯へ向かう。
10キロという距離だが、おそらく大量ゴブリン討伐により格かレベルかそういった何かが上がったのだろう。とにかく身体能力なども上がっているようで道中は楽に移動ができた。
それはフランも同じようで意外と詳しい中二ワードを次々と教えてくれながら走っていた。きっと前世ではかなりコアなラノベ女子だったのだろう。
しかし困った……教えてもらった中二ワードをまったく覚えれる気がしない……聞いた瞬間から頭の中をすべる感じがして記憶できない……よくあんな恥ずかしいワードを笑顔でホイホイ言えるもんだ。
聞いてるだけなのに耳まで真っ赤になっている自信があった俺は、「これ以上は無理です黙ってください」と足を止めて綺麗な土下座をしていた。
「まったく!せっかくシャドーのためを思って私の持てる知識を提供しているのに!」
「ま、まあ気持ちはありがたく受け取っておくよ。でもまったく覚えれる気がしないんだ。聞いてるだけでなんかこう逃げ出したい……もうだめ死にたい……」
「ちょっと!なんで急に落ち込んでるの?落差やばいよ!」
「ああ、俺もそう思う」
急にどうでもよくなって膝をついた俺にフランは呆れている。
最近感情の起伏が激しいのはきっと職業(ジョブ)の性質かもしれない。決して人生に疲れたからではないと思う。
そして到着した火山地帯。途中なんどかゴブリンに遭遇するが、そこはフランが『羨望』からの『反撃』で一掃していた。フランは戦えるタンクであるようだ。
その火山地帯は遠目にワーウルフとみられる深い青を煌めかせた狼が群れを作っているようだった。
「私……思ったんだけど、ここ見渡し良すぎない?」
「そうだな」
「なんかこっちに全部向かってきてない?」
「そりゃね……でもここなら木もないし……いいかな?」
「うんいいんじゃない?」
とりあえず、と俺は軽めのジャブとして一番手前の群れめがけて攻撃を放つ。
「『我の魔力に反応せし精霊よ!水の……』」
「守りは任せて!シャドーの事は私の魔力の尽きるまで魂の『反撃』が守り抜くから!」
フランがワーウルフをはじき飛ばしながらなんか叫んでいた。
そして『闇の言葉』で込み上げてきた俺の中の魔力が、ふわりと消え去る感覚がびびる俺。
「まって!フランはそんな闇っぽいこと言わないで!何か盛り下がるっぽい!今高まった魔力が飛散してったから!」
「えっ?なんて?」
「なんで目の前にいるのに聞こえてないんだよ!都合のいい耳だな!くっそ、フランは少し黙っててお願い!『我の魔力に反応せし精霊よ!水の息吹をもって敵を穿て!水球弾』これでどうだー!」
やはりちょっと集中しきれなかったのか小さな水の玉がいくつかが、目の前のワーウルフにぶつかり消えた。
倒し切れなかったワーウルフたちが再度飛びついてくるが、フランの『反撃』で現状はなんとか抑えられているようだった。俺は焦りながらも次のワードを考えるため頭を動かしていた。
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