プロローグ

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プロローグ

 明るい日差しが降り注ぎ、色とりどりの花が咲き誇るブリティアン王国の四月。厳しい寒さから解放され、自然の恵みに生の喜びを見出すのは植物や野生動物だけではなく、人々も同様に浮き立つ。  首都ロンセルの大通りから折れた側道に立ち並ぶ市でも、この時期は花や食卓に並べる春の食材の話で活気づくはずだった。だが、どうやら今日はいつもと違い、緊張を孕んだ囁きに満ちているようだ。  その緊張感が一瞬にして強まったのは、遠くから石畳を叩く多数の蹄の音が聞こえたからだ。並んだテントの陰に、人々が大慌てで身を潜めて大通りを窺う。背の高い石造りの建物の間から見える大通りを駆け抜けていく行列に、人々の目が釘付けになった。  多分城に向かっているのだろう豪華な馬車の扉には、ブリティアン王国の南にあるフランセン王国の紋章が描かれている。ブルーの礼装軍服を着た騎馬兵隊の列が馬車を囲い、馬の足並みを揃えて進む様は、一見パレードのような優雅さと華やかさを感じさせるが、馬に背筋を伸ばして騎乗する騎士や兵たちに隙は無く、馬車に高貴な身分の人物が乗っているのだということを誰もが察した。  街の人々は数刻前に、ブリティアン王国の先ぶれの兵士が、死に物狂いで城に向かって馬を飛ばすのを目撃している。  すわ、戦争か⁉ と噂が街中に飛び交い、人々が戦々恐々としていたところに、礼装に身を包んだ隣国の騎馬兵と豪華な馬車が通り抜けて行ったのだ。  戦争ではないと知った人々はホッと胸を撫でおろしたものの、一体何が起きたのだろうと新しい憶測の噂話に花を咲かせた。
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