プロローグ

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 朝の八時頃、城門を潜った途端に転げ落ちるように馬から降りた先ぶれからの密伝は、昨夜のパーティーで夜更かしをして、まだ惰眠を貪っているパウロン王と、王妃の庭にある田舎風コテージで密談をしていた王妃ガルレアの元に届けられた。  侍従長に付き添われ入室した王妃の腰巾着のルアール侯爵が、田舎風の家屋にそぐわない豪華な椅子に腰かけたガルレア王妃に許しを得て、耳元で囁くと王妃の顔色がサッと青ざめた。 「何だと? エリザ王女がこちらに向かっているというのか?」  赤い髪を結あげているせいで、余計に吊り上がって見える王妃のハシバミ色の目が眇められ、赤く塗った薄い唇がへの字に曲がる。  ガルレア王妃の機嫌が目に見えて悪くなったのを目の前にして、密伝を伝えたルアール侯爵はブリュネットの髪に顔を隠し、中年太りの身を竦めた。  ガルレア王妃は気に入らない者をすぐに排除する非情さから、階級を問わずに恐れられ、陰でデモネス(女悪魔)とあだ名されている。吊り目を半開きにして睨んだ顔は、背筋を凍らせるほどの美しさで迫力があるが、その唇から漏れるのは愛の言葉ではなく、破滅の言葉だ。  ルアール侯爵は小刻みに震える手を握りつつ、フランセン王国のエリザ王女が数刻後に城に着くことを、テーブルの向こうに座る第一王子のハインツと第二王子のアルバートにも聞こえるように声に出してはっきりと伝え直した。
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