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その日は朝まで飲み明かし、と言っても、朝まで同じバーに帯広絵梨奈と二人でいて、俺の方はひたすら重苦しい沈黙に耐え続けただけだが、朝方になると、絵梨奈の方から席を立って、このバーから外に出ていこうとしていた。 深酒して少しフラついている彼女を、俺はすぐにエスコートして、料金を二人分払ってから、重い大理石のバーの扉を開けた。 外に出ると、空は白々と明けており、突然眩しい陽光が降りかかってきたので、思わず目を細めた。 だが爽やかな風が吹き、朝の日差しも心地良く、ほんの少しだが、重苦しい気持ちが晴れてきた。 明けない夜はない、 とはよく言ったものだが、白々と明けた朝の明るい空を見ていると、それは真実だろうという気がしてくる…。 否、そうじゃない。 そうであってほしいと願っているだけだ。 単なるささやかな願い… そんな小さな願いが叶ってほしいと、果てしない絶望の上に立って、無力な人間がささやかにそう呟いているにすぎない。 俺に出来ることなんてのはその程度のことだ。 だが気のせいかもしれないが、朝の明るい日差しに照らされた絵梨奈の表情が、少しだけ、さっきまでより晴れがましいものに見えた。 否、そう思いたいだけなのかもしれないが、俺には少し、絵梨奈に輝きにも似た美しさがその時感じられた。 儚い輝きにすぎないかもしれないが、微かな光が、そこに灯っているような気がした…。 俺は絵梨奈と並んで無言で歩きながら、彼女を家まで滞りなく送り届けることだけを考えていた。 俺に出来ることを精一杯やるだけだ。 まだ酔いが抜けないらしい絵梨奈は、時折俺に身体を預けるようにもたれかかってくるので、俺は黙って彼女の肩を抱いて歩き続けた。 まだ早朝ゆえに、周りには誰もいない。 絵梨奈の家も歩いて帰るには距離が遠かったが、俺と絵梨奈は並んでひたすら一緒に歩き続けた。 全ては一歩、一歩だ。 こうやって一歩一歩歩いていくしかない。 自分の足で。 隣にいる絵梨奈の美しい顔に、少しずつ柔らかな明るめの表情が蘇ってきているような気がしていたが、こいつもただの気のせいかもしれない。 だがいつかは絵梨奈の美しくも晴れがましい笑顔がまた見られるような気が勝手にしていた。 俺の小さな願いにすぎないかもしれない…。 だがその小さな願いに、火を灯すしかない。 火を灯すしかない…。
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