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しばらくは綾波優斗が助かったことでその場にいた全員が胸を撫で下ろし、冴木了司も、ついさっきまでその了司を殺そうとしていた帯広絵梨奈も、同じように幸せそうな笑みを浮かべてその場に立っていた。
俺も安堵の笑みを浮かべながら、優斗の無事を祝い、3人で楽しく談笑した。
こういう形でわだかまりが多少なりとも溶け出して、和解の機会が訪れるとは俺も想像していなかったが、なんとなくこれで色んな問題が全て片付くのではないかという気がしていた。
だがそんな幸せな時間も、ほんの束の間だった。
突然、病院の窓ガラスに銃弾が撃ち込まれたのだ。
撃ち込んだ奴の正体はだいたい想像がつく。
本来、優斗を乗せた救急車が到着するはずだった救急病院の方に張り込んで了司を待ち伏せしていた島田組の上部組織の組員やらヒットマンが、自分たちがまんまと俺に一杯食わされたことに気がついて、向こうの救急病院の医師を脅し、行き先変更になったこの救急病院の場所を吐かせた後、いよいよこちらに乗り込んできたのだろう。
まあ、そのうち来るとは思っていたが、予想よりちょっと早かった。
了司と絵梨奈も緊急事態の意味をすぐに察したようで、それまでの笑顔を真摯な表情に切り替えた。
まずはターゲットである了司をどこかに隠すことを俺は考えた。
優斗が人質に取られる可能性もあるので病室も見張らなくてはならない。
これからやることは山ほどある。
了司がすでにこちらに向かっている子分達に急ぐように連絡を入れたが、果たして間に合うかどうか…。
また病院に銃弾が撃ち込まれた。
こんな派手で荒っぽいやり方をするという事は、病院にいる医師や患者など関係ない人間を抗争の巻き添えや犠牲にしてでも早急に了司を抹殺しようという手に出てきたということだろう。
俺は危機感を感じながらも、やれることは全部やるしかないと腹を括った。
了司が死ぬ時は、たぶん俺も死ぬ時だろうから…。
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