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その後、冴木了司の組とその上部組織との影の対立は、一旦暗礁に乗り上げたようだった。 上部組織としてはあの病院で了司を抹殺出来なかったことで、これ以上は表立って派手な動きを見せるわけにもいかなくなったようだ。 建前上は了司の組と上部組織は同じ組織の系列なのだから、縄張り争いで仲間割れしていることをあまり表沙汰には出来ないところがあったからだ。 ならば、自分の仲間の組織の縄張りなどに手を出さなければいいじゃないか、と思うのだが、権力という奴はどこの世界でも我が儘で強欲なものだ。 きっと了司の組の縄張りに何かビジネス上の大きな旨味があるんだろう。 そいつを横取りしたくなったといったところか…。 よくは知らないが、他の対立組織と了司の組の抗争自体も、どうやらその辺に原因があるらしい。 まだまだ何も解決しちゃいない。 それどころか三つ巴の抗争の様相を呈しているのだが、今はまるで何事もなかったように静まり返っている。 嵐の前の静けさなのかもしれないが…不気味な沈黙が組織の間に不穏に流れていた。 だが、それも、 "一時休戦"と考えれば、 少しやすらぎの時が訪れたとも言える。 俺はそう考えたかった。 今は了司も、そして怪我をしている綾波優斗も、心に穴が開いたようになってしまった帯広絵梨奈にとっても、休息の時間であって欲しかった。  
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