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それから2ヶ月が過ぎた。 まだヤクザ抗争の方は静まり返ったままで、第2ラウンドのゴングが鳴ってはいない状況だが、冴木了司らは多少は緊迫した空気の中にいるようだ。 どうやら了司の組の上部組織は、俺が了司の組に入ったと勘違いしたらしく、やたらと警戒を強めたらしいが、それに関しては了司がはっきり上部組織の人間に、そんな事実はない、全てデマだと言ってくれたようだ。 「それにしても、あんたがうちの組に入るってガセネタを信じていた時のあの上部組織の連中の慌てようといったらなかったよ。あんたがうちの組に入ることを物凄く警戒してるみたいで。あんた、元刑事だよね?一体どんなヤバい刑事だったんすか?」 と了司には呆れ返るように言われたが、まああの上部組織には刑事時代に顔を合わせた奴もいる。 今は幹部になっているが、昔はチンピラだった連中の中には今更俺の顔を見たくない奴らもいるだろう。 了司の話を聞いていて、なんだか懐かしい奴らの顔が浮かんできて、ちょっと苦笑してしまった。 どうやら、綾波優斗と了司はなんとか仲睦まじく暮らしているらしい。 いいことだ。 優斗にはもうずっと会っていないが、どうか自分らしく生きてほしいと思う。 それは帯広絵梨奈にも、そうであってほしいと思う。 絵梨奈にも酔った彼女をマンションの自宅に送り届けて以降、もう契約も切れ、全く会っていないが、ただただ、そうであってほしい。 最近はモデルの仕事をしているようで、先日、街の大きな広告パネルに美しく映っている絵梨奈の姿を見かけたが、その時微かな笑みを彼女は浮かべていた。 ただの撮影用の笑みかもしれないが、俺には少しは前に進み始めた絵梨奈の、心からの力強い笑顔にも見えた。 ひたすら絵梨奈らしい、美しき笑顔に。 ただそう望んでいるだけなのかもしれんが、まあ元気そうなのは何よりだ。 難しいことは言わない。 ただそのままで、生きていてくれれば、それでいい。 多くを望まないし、そもそも望めやしない。 俺たちのような生き方をしてれば… だがまたいつか、 風に吹かれて、 何処かでふらりと出会いたいものだ。 それまで、どうか、元気で…。 (終)
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