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店に背の高い男の客が入って来た。
「この剣と同じ物が欲しいのだが」
「それはこの店にはないね」
「何だ。無いのかよ。この辺に他の武器屋はないか」
横柄な男の声にムカついてテルンは振り向いて剣を見た。
「随分雑に使っているな。そんな使い方していたら何本あっても足りないぞ」
テルンが不愛想に言った。男は「何だと」と睨んだ。
「おい」ゼンナットが怒った。
「どこも刃こぼれしている。手入れも雑」
「気に食わないな。表に出な」
男が言うと「何だよ」とテルンは表に出た。
「雑に使っていると言ったな。それなら俺の剣をよけられる筈だ」
店の前で男は剣を構えた。
通行人が悲鳴を上げて二人の近くを避けて様子を見た。
「訳のわからない言いがかりだな。子供相手に馬鹿じゃねえの」
「ガキだからムカつくんだよ」
男が剣を振り下ろした。テルンは後ろによけた。
「剣も雑だが腕も雑だな」
「何を!」
男は剣を振りながら間を詰めた。テルンは転んだ。
「ちっ」「終わりだな」
二人が同時に言った時、間に誰かが立って剣を男に向けた。
「子供相手にみっともないぞ」
鎧を着た男が言うと「親衛隊かよ」と男は舌打ちをしてその場を去った。
「大丈夫か」
鎧を着た男が訊くとテルンは申し訳なさそうに「あ、ありがとう」と答えた。
「無茶するんじゃねえよ。もしもの事があったらガゼムに何て言ったらいいんだ」
ゼンナットが怒鳴った。
テルンは「悪かったよ。つい生意気でムカついたから」と謝った。
男がテルンを見た。
「ほお、ガゼム殿を知っているのか。もしかしてお前は弟子か」
「いや、息子だよ」
「そうか。私はクラング。親衛隊だ。この剣はガゼム殿が打った剣なんだ」
クラングはテルンに剣を見せた。
「へえ、父ちゃんが打ったのか。刃こぼれしているが長く使っている様に見えない。大事に使っているんだな」
テルンが剣を眺めながら言った。
「わかるのか」
「俺も鍛冶士だ。刃を見る位は出来る」
「実はガゼム殿にこの剣を直して欲しいのだが……他の鍛冶屋に頼んでも無理だと言われてな」
テルンの表情が曇った。
「父ちゃんはもう打てないんだ。両手を怪我して」
「そうなのか。それは残念だ」
「あ、でも父ちゃんに見せたら直し方を教えてもらえるかもな」
テルンは思いついて明るく答えた。
「それでも構わん。ぜひ会わせて欲しい」
クラングが頼むとテルンは西の門で待つ様に言って別れた。
買い出しなどの用事を済ませたテルンが西の門に行くと既にクラングが待っていた。
二人は町を出てロンポダへ向かった。
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