ガラスの海のアルシエ

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1 僕  これから僕は語る。  語られることに、どれほどの意味があるのか。  わからない。もとより意味などないかもしれない。  滅びの星に残された、ひとつの思考回路(アトリシエ)。そんなものの気まぐれな呟きを、誰がまじめに聞くだろうか。  、  僕は語る。語らなければならない。  それが僕の存在理由だから。  語ることによってのみ、僕は僕であり続けるだろう。  もとより無意味だ、この宇宙は。  そこに存在をし続けるためには、何かひとつだけでも、理由が必要だ。それがほんの形だけの、はりぼての理由であるとしても。  この物語は、僕がここで僕であることの証。ささやかな証明書だ。  それを受け取った誰かが、そこに何を読み取るのか。何を思うのか。  わからない。僕は知らない。  その手放しの無責任さを、はじめに詫びておく。申し訳ない。    僕の名前はアルシエという。  そしてまた、ルシエンサでもある。  二人はひとつだ。違いはない。  同じ回路(シエサ)に肩をよせあう同居人(ルメイッサ)。もともとはひとつだ。理由があって二人になった。混乱のないように、その事実だけ最初に言っておく。  僕には他の名前もある。  ぜんぶでいくつあるかは、僕もじつは知らない。また必要な時に、その名は明かされる。だからここでは言わないでおく。  ずいぶんと長くなった。  独り言は終わりだ。  これから始まる。  何が?  さあね。少なくとも、「何か」だ。  その「何か」が、本当には何なのか。  なぜそこにあるのか。存在するのか。  それは訊かないで欲しい、  なぜなら僕自身にも、そんなことは、まだぜんぜん、決めることができないからだ。
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