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 結局のところ、高性能チャットAIな魔法の鏡は存在していなくて、あそこにあったのは監視用のマジックミラーだったらしい。ひどい。ファンタジーに感動していた私の純心を返せ。 「じゃあ、記憶を取り戻す前の私が変なことを調べていたっていうのも嘘?」 「あれは大声でわめき散らしていた内容ですので」 「よくもまあ、生かしておいてくれましたね」 「まあ、もしも狩人に白雪姫の殺害命令を出していたら、それなりの対応をしていたと思いますが」 「それも全部知っているんですか」 「ええ。だって、狩人はわたしですし」  どうりで狩人がいるときは、魔法の鏡が静かなわけだよ。 「魔法の鏡に狩人だなんて、大変だったわね」 「まあ一番の仕事は、国王代理だったのですが」 「もう少し役割分担しなよ! 仕事の抱え込みは良くないよ」 「記憶を取り戻す前のあなたが、何をやっていたかをよく思い出してからそういう口はきいてくださいね」 「すみません」  あの自動人形は両親も祖父母も亡くした白雪ちゃんを守るために、国王陛下の遺言に基づいて作られたものらしい。声のサンプルもほとんど取れなかったため、会話には不向きだったのだとか。白雪ちゃんが今まで頑張ってきたぶん、これからいっぱい甘やかしてあげたいと思う。 「今さらですが、わたしと家族になってもらえませんか」 「あれだけ私のことをアホとか言っておいて?」 「いや、本当にあなたというひとはうるさくて。起きていてもやかましいのに、寝ていても騒々しくて」 「もう少しオブラートに包め」 「でもそんな賑やかさに慣れてしまったら、ひとりでいるのが寂しくなりました。表舞台に立つなんてまっぴらごめんだったのですが、あなたのためにお金と権力も手に入れますのでどうか」 「いや、そこを強調されても……」  そ、そんな顔で私を見つめてきてもダメなんだからね! ごめん、二秒で陥落した。  それから私は魔法の鏡もとい王弟のクレイグさまと結婚した。  国王陛下が不治の病を患っていたことや、私と国王陛下は白い結婚であったこと、私を娶る王弟殿下が次期国王になることなど、嘘と真実を織りまぜながら、うまい具合に国民を納得させてみせたのだ。  壊れた自動人形を使って、病でこの世を去っていたはずの国王陛下の葬儀まで出しちゃったんだから本当にすごい。  さすが、魔法の鏡になりきる男は現実世界でもえげつないわ。 「まさかあなたが、魔法の鏡からの求婚をあんなに簡単に受け入れるとは思いもしませんでした」 「だって、あなたのひととなりはよくわかっていたし。あと、私の故郷では『AI』は『愛』に通じるものだから、これでめでたしめでたしってわけ」  私が笑いかければ、不満そうにクレイグさまがため息を吐いた。 「……いや、わたしに騎士の兜を意味もなく被せている状態で、めでたしめでたしなんて言われても納得できないのですか」 「だって、二次元でも緊張するのに、三次元とかヤバいし!」 「はあ。兜は肩が凝るんですよ。顔半分を隠す仮面か、目元の印象を変える片眼鏡をつけるので勘弁してもらえませんか」 「コロンビーナやらモノクルやら、単純にイケメン度が上がるからダメ、無理! 鼻血が出る」 「いい加減、手を繋ぐより先に進みたいんですが」 「おかあさまとおとうさまは、今日も仲良しね。わたくし、早く弟や妹がほしいわ」  継母な私と魔法の鏡な旦那さまと、可愛い白雪姫は、王国でも有名な仲良し家族となり幸せに暮らしましたとさ。  ちなみに、隣国の王子さまが婚期を逃して独身を貫いたらしいけど、それは私のせいじゃないってことでよろしくお願いします。
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