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ふたたび目の前が明るくなった。
もとの海のうえを飛んでいた。
光の粒子はすっかり消えていた。
イロンのはるか下をおだやかな波が寄せ返している。
ふと気づいた。
イロンの横を一緒に飛ぶつばめがいる。
すっかり大人になっているが、イロンにはわかる。
「きみは……エレだね」
エレは何もこたえない。
前方をみて、ひたすら羽をうごかしている。
「死んだと思っていたけど、助かったんだね。よかった」
エレはやはり、何もこたえない。
イロンの言葉がきこえていないのか。
ただ、前だけをみつめている。
二羽は並びながら飛びつづけた。
太陽が背中を焼く。それを潮風がひやしてくれる。
水平線のはるかかなたでは、空と海が溶けひとつになっている。
次のスコールが来て、去ったあと、ふたたび色の光が出現した。
エレはだまって光のなかに突っこんでゆく。
イロンは引き返そうとした。
さっきの氷の粒子の痛さを覚えている。
それに、いやな記憶を思い出したくない。
なのに、彼の意志に反してからだがどんどん、色の光にすいこまれてゆく。
いやだ、いやだ。
助けて。
二羽は光の渦に巻き込まれ、やがてみえなくなった。
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