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気がつくと民家の軒下の巣のふちに立っていた。
何度目の子育てだったろうか。妻がいないので二度目のときか。
他のつばめのところへ行ったので仕方なく、イロンがひとりで六羽の子を育てていたのだった。
あの年は極度の日照りで、なかなか虫がみつからなかった。
暑さで蚊やトンボが死んでしまうのだ。
イロンは毎日へとへとになりながら田畑へ行き虫を探し、巣との間を往復した。
暑さで飛んでいる最中イロン自身、意識を失いかけたこともあった。
エサを子に与える。
きょうだいをおしのけてわれ先にと奪い合う子たち。
なかに生まれつき体の小さいひ弱な子がいた。
名をエレといった。
けんめいに口をひらくエレにもエサを与えるのだが、横からきょうだいがサッと入ってきて、食べてしまう。
からだがどんどん大きくなるきょうだいに押され、エレは巣の隅っこでいつも縮こまっていた。
日に日に弱っていくエレ。
しかしイロンにはどうすることもできない。
イロン自身、きょうだいとの競争のなかで育ったのだから。
きょうだいは順調に育ち、巣が手狭になった。こぼれ落ちそうだ。
イロンは残酷な決定を下した。
きょうだいの足元に横たわるエレを口ばしで巣のふちに押しやり、突き落としたのだ。
落とされる直前、エレは目に涙をためてイロンにうったえた。
「ごめんなさい、許して、許して。お願い、僕を落とさないで」
懇願するエレをイロンは巣から落とした。
イロンの脳裏に、彼の父母がこうやって妹を突き落としていた記憶がよみがえった。
木の葉のように軽いエレのからだは舞いながら落ち、コンクリートに叩きつぶされた。
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