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放課後にあらわれたきみはどこまで知っている?
「見たよ」
声をかけられて振り向くとクラスメイトの斎藤がいた。
ぼくの隣には友人の里見がいて、驚いていたんだけど、斎藤はまったく気にしていないそぶりで笑っていた。
「見たって何を?」
声が震えないように、僕は齊藤を見ることにした。
齊藤はふふっと笑って、まるでずっと仲が良かったように、僕の肩に腕を置く。
「里見くん、あっち行って」
急にその声が高くなった気がした。
齊藤……斎藤アオイは、楽しそうでぼくは腹から煮えたぎるような怒りを感じたのだけれど、表情には出さないほうがいいと判断した。
「教室に入ろう」
ぼくが言うと、斎藤は素直にうなずいて、すぐ近くにある視聴覚室に入った。
「部屋は暗いままがいい? ムード出る?」
何を言っているんだろう。
ぼくは彼女のことがわからない。
彼女……と言っていいんだろうか。
齊藤は昔なら「ボーイッシュ」と言われていたような、ショートヘアをしていて、ジェンダーレスの制服を着ていた。
入学式のあと、教室でひとりひとり挨拶をするときに、
「この格好が好きなだけ。男とか女とか思わないでください」
と言ったのを12月になった今も覚えている。
それきりクラスメイトは距離をとって齊藤を見ていた。
クールな斎藤を見て女子が騒ぎ「だれか話しかけようよ」と言ったが、まだ実現していない。
齊藤は距離をとっている。
わざと。
だからぼくと里見は驚いたんだ。
「見たって何をだよ」
「放課後、きみがこの部屋で会っていた人」
ぼくは目をそらした。
秘密がもれた。
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