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未成年だから罰金で済むだろうか。
いや、いっしょにいたあの人は未成年じゃない。
ぼくはあの人を……。
「2045年」
アオイが振り返る。
口の端は上がっていたが、目はもう笑っていなかった。
「動画視聴により、視力の低下、配信サイト依存、子どもの学力低下、そして電力消費が世界中で指摘されて、まずアメリカで学習以外の目的での動画視聴が違法になった」
教科書に載っていた文言を淡々と口にする。
「先進国では議論があったが、2047年、ヨーロッパのほとんどの国でも学習以外での動画視聴の禁止法が可決、日本は2048年にそれに続いた」
映像からの光をぼくとあの人は「まぶしい」と笑いあった。
見ていることより、いっしょに禁じられたことをしている。
そのことのほうが、楽しかった。
「罰則はアメリカなら禁固刑50年か。やっぱりいちばん厳しいね」
「お前、通報したの?」
思い切って聞いた。
「してないよ。なんのメリットもないし、本人たちに言わないと」
「メリット?」
アオイはぼくの言葉を無視した。
「きみは16歳だから、まあ保護者が罰金払って済むかな。だからきみだけなら、私は言うつもりはなかったんだよ」
唇をかみしめる。ようやくアオイの言いたいことがわかった。
「ここは視聴覚室。私たちは月に1回、ここでテストを受ける。質問事項だけがわっと並んで、その回答をタブレットに打ち込んで答える。でも、来年にはなくなるらしいね、ここも」
「他校で犯罪が続出してるからな」
強い口調を意識した。早くアオイの要求を聞かなければあの人を危険にさらす。
「そう。娯楽動画を違法サイトから取り寄せて見る犯罪者がいるからね」
アオイの目がきらっと光った。
「18歳以上の場合……そうだ、禁固30年だっけ。日本は甘いね。でも、人によってはもっと重くなるかな」
……こいつ。
拳をにぎりしめた。
「これ、なに?エイガっていうやつ?それともユーチューバーっていう、昔いた人たちが作った動画?」
アオイが差し出したスマホの画面に、娯楽動画を見ているぼくとあの人の後ろ姿が映っていた。
「なんだよ。見せたきゃ警察に見せろよ」
震えている。退学、親への罰金刑、世間の目……強がっているが、アオイはこれを警察に見せるとは限らない。
強いふりをしなくては、と思った瞬間、アオイが早口になった。
「あのさ、放課後、きみがこの部屋で会っていた人見たよって言ったよね。娯楽動画を見てる君を見たよ、じゃなくて」
汗が零れ落ちた。
いつの間にか冷や汗をかいていた。
いちばん隠したかったのは、娯楽動画を見たことじゃない。
あの人がここにいたことだ。
「まあぼくも悪いかな。子どものとき以来だよって娯楽動画のことだしね」
アオイは早口ではなくなったが、ぼくはその言葉をさえぎって言った。
「友達だよ。誰かは言わないけど」
ごまかすために口走った言葉は明らかに失敗だった。
「はあ?お前、私のことなめてる?」
アオイが怒鳴った。
「言えよ。だれと会ってたんだよ、ここで。だれと会って、娯楽動画を見てた? 言わないとガチでこの動画、警察に渡すから」
アオイの顔は怒りで紅潮していて、なぜかその顔を見て、ぼくはまた可愛いと思ってしまった。そう思うことで、今の混乱した事態から逃げたかったのかもしれない。
でももう無理だ。
ぼくは口を開いた。
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