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「野田くん、教えて」
ぼくはアオイから、いたいけな小動物を連想した。
家庭に恵まれなかった彼女にとって、柊家は唯一とも言える安らぎの場だったのだろう。
それを突如として奪われた時、アオイの心に到来した絶望は想像を絶する。
何も答えないぼくに近づき、アオイは胸倉をつかんだ。その力の弱さに驚いたが、ぼくは振り払えない。
「どうして美亜ちゃんと知り合いなんだよ!なんで美亜ちゃんは野田くんの前で、あんな幸せそうに笑ってたんだよ!?」
娯楽映画を見ていたから笑ってただけだよ。
……だめだ。そんな嘘、すぐにばれる。
「教えないとその動画を警察に見せるって?」
ぼくは逆にアオイに聞いてみることにした。
「嘘だね。そうなればいちばん危ない立場になるのは柊さんだろ」
アオイは失敗した。
ぼくに柊さんと幼なじみだと明かすべきではなかったし、自分が彼女に好意的であることも伏せるのがベストだった。
最初は成功していたのに、ぼくがなかなか柊さんの名前を出さないから激高してしまったんだろう。
ぼくはアオイをかわいいと思った。
アオイはもしかしたら柊さんに恋をしているのかもしれない。
それでもぼくは、アオイを傷つけたくないと思った。
口を開いたとたん、あの事件のことがよぎった。
そうだ、アオイに何か言う前に、ぼくは正確に思い出さなければならない。
あの日、柊美亜の家庭で何が起こったのかを。
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