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ずっと
「夢みたい」
彼女がふとつぶやいた。
そして、僕の肩に寄りかかる。
『間もなく、花火が打ち上がります。有料席をご予約の方は、今すぐお近くの受け付けカウンターまでお越しください。繰り返します。…』
「もうすぐ打ち上がるね…」
彼女が名残惜しそうに言った。
僕も、「うん」とうなずいた。
「あっ」
僕は、大切なことを思い出した。
「何?」
「ここよりもいいところがある」
「え、今!?」
「いいから、急いで」
「わ、わかったけど」
僕は彼女の手をとり、走った。
橋を渡っている途中、一発目の花火が上がった。
彼女の走るスピードが落ちたので、見てみると、彼女は花火に見とれていた。
その目には、花火よりも眩しい光がうつっていた。
やがて、小高い丘にやって来た。
人気はなく、2人きりでゆっくりできそうだ。
彼女は、花火に見とれていた。
でも、彼女があまりにも花火に見とれていたので、ついに僕は我慢できなくなった。
「おい」
「やっ」
思いきり手を引きすぎたようだ。
彼女は僕の肩に倒れこんだ。
彼女の綺麗な顔が間近に迫る。
そして、花火が飛び散る中、僕らの影は重なる。
「ねえ」
まだ花火が打ち上がっている。
「何?」
「好きだよ」
「うん」
とても嬉しかったのに、上手く言葉にできなかった。
「これからはさ、カレカノっぽく」
「麻美、祐樹ってしよ」
「麻美、かあ」
その名前で呼ぶことに新鮮なものを感じて、しみじみと言った。
「何よ?何か不満?」
彼女、いや、『麻美』は、僕が自分の名前を呼ぶこと、またはその名前自体に不満を感じているととっているようだ。
僕はちょっと笑って言う。
「違うよ」
「じゃあ何」
「別に?ちょっと新鮮だなあって」
麻美もクスッと笑って言う。
「いつもは心の中で私のこと何て呼んでたの?」
「さあ?」
「教えてよ」
「うーん」
「やっぱ秘密!」
「つまんないじゃん!」
彼女が僕に食らいつく。
僕はやだよーと舌を出して見せた。
麻美はますます怒り、僕の鼻をつまんだ。
僕は豚のように「フガッ」と鳴きながら、2人一緒に吹き出した。
今までの、レモンみたいな甘酸っぱい日々も、
太陽みたいにまぶしかった夜も、
あの綺麗に澄んでいた青空も、
寂しい色の夕焼け空も…
全部全部君がくれたもの。
君が、作ってくれたもの。
君という人がいてくれたこと。
僕と出会ってくれたこと。
そして、好きになってくれたこと。
全部全部全部、嬉しかった。
ありがとう。
これからもずっと…
君とずっと…
いられたのなら。
笑い合えたのなら。
どんなときも一緒にいたい。
君となら、どんなこともできる。
乗り越えられる気がする。
例え君がこの世界から消えてしまっても、僕らはまた会える。
ここではない、どこかで。
また再び、僕らの糸が結ばれる場所で。世界で。
こんな日々がいつまでも続きますように。
2人は、7月7日の流れ星に祈る。
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