落としもの

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落としもの

 僕は、怪我がだいぶ治ったので、3日ぶりくらいに学校に登校し始めた。  僕は、よろよろとしながらベッドから起き上がり、 洗面台へ向かう。眠いせいか、むっつりした顔で顔を洗った後、歯を磨いた。 「あーあ… 行きたくないなあ…」  本音がつい口からこぼれてしまった。 そうだ。 僕は、学校に行きたくない。 怪我をするのは嫌だったけど、そのおかげで家でゆっくりと休むことができた。このまま永遠にこの時間が続けば…  なーんて思ったけど、3日はあっという間に過ぎ去ってしまった。 「そいえば、今日は何曜日だっけな…っと」  洗面台からベッド脇へ急ぎ足で行き、 スマホを手に取る。 「…ええ〜!火曜日~!?」  僕はため息をつき、ベッドに倒れ込んだ。 もう一度ため息をついて、頭を掻く。1週間は、まだまだ始まったばかりだ。  もし今日が土曜日だったらなあ…  5連休…  1週間休めるのとさほど変わらない。学校に行く日にち分休めるのだ。  僕は、階段をバタバタと駆け降り、 朝食の席についた。 キーンコーンカーンコーン  裏庭に鳴り響くチャイムは、2人の生徒の声によってかき消された。 「高野~~?」 「どうよ、調子はァ?」  早川と三浦がこちらに迫ってくる。 僕は壁にもたれながら、2人から目を逸らした。 「高野…お前、約束…忘れたとは言わせねぇよ??」 Г…」 ダンッ  金子が、僕がもたれている壁に、思いっきり足で壁ドンをしてきた。 そして、 金子はその口元に、ニタァと笑みを浮かべる。 「ホラぁ。ダンゴムシ。 約束の品だ!食えよ。早く!」  僕は、断固として金子たちの目を見ないようにした。  金子が、 ダンゴムシを僕の顔の前まで持ってきた。モゾモゾとうごめくものが視界に入る。  僕は思わず吐きそうになったが、なんとかそれを堪えた。  多分、 このままだと無理やり口に押し込められるだろう。 僕は、意を決して裏庭を抜ける道を確認した。  そして、一気に走り出した。 グラウンドへと繋がる道に立ちはだかる早川と三浦を押しの けて、今までに出したこともない全速力で、グラウンドの端を突っ切った。 金子たちが追いかけてくるのが見えたが、もう気にしなかった。  授業が始まり、 金子たちがだまっても、その視線はグサグサと僕に刺さる。なるべく冷静を装ったが、 心臓はドクドクとしていた。  これから起きることを考えて…  また、休み時間が来てしまった。  今度こそ、殺される。 授業中にも、鋭い視線で僕を睨みつけていた金子たちを思い出すと、恐ろしくてたまらなかった。  僕は、チャイムと同時に、バクバクしている心臓を押さえ、 椅子から立ち上がった。  僕は、金子たちに会わないように、そそくさとトイレへ向かった。10分くらいは入っていそうだ。これからトイレを使うであろう人たちに謝罪をし、小走りにトイレへ向かった。 「……んん?」  麻美は、休み時間、一枚の紙を見つめていた。  その紙には、メアドらしきものが書かれていた。綺麗な字だ。  これは…誰のものだろう。字を見てもわからなかった。誰かのノートを見る機会はあまりないし、女子ならまだしも、男子のことなんて一切わからない。…三河先輩を除いて♡  しまった。 また、 三河先輩のことで…  麻美は、3年の三河裕翔のファンだった。三河はモテるので、付き合うとかそういうことは現実的にあり得ない。だから、みんな「ファン」を名乗っているのだ。 自分も、その中の1人だった。  しかし…これは本当に誰のものなのだろうか。 「もしかして、 三河先輩だったりして…」  イヤイヤ!そんなはずないでしょ!  でも…試してみる価値はあるかも。 だって、試すだけだもの。それくらいいいでしょ?だって試したら誰のものかもわかるかもしれないし…  なんだかんだと言い訳しながら、メールアドレスを登録する。 ドクドクという鼓動を感じながら、トーク画面を開いた。 「ふうー。」  まずは、名前確認。 「...NICO…?」  やっぱ本名になんてしないよなあ。ま、とりあえず話してみよう。 『こんにちは!』  …既読がついた。 ヴヴヴ  返信が来る。 『すいません、 あなた誰ですか?』  やっぱそうなるよなあと苦笑いした。 『私、 milです。 突然ごめんなさい(>人<)怪しい者ではありませんっ、本当に! 』  やっぱ私…変人…かな? 『いえ…でも、これも何かの縁かも。ちょっと話しませんか?』  おっ!なんかいい感じの人じゃん、とOKのスタンプを送った。 『まずは、 俺の自己紹介から。 名前は (^O^)/ NICO。 好きな食べ物は、肉味噌炒め。好きなタイプは、可愛くておっとりしてる優しい子かな?』  俺かあ…なんか好き…かも。 『うちは、mil。 好きな食べ物は、チーズ。 好きなタイプは、カッコよくて優しくて、 積極的な人がいいな!』  ここで麻美は、面白そうなことを思いついた。どうせ向こうが知らない人間なら、キャラを作っちゃえ。 そして自分はそのキャラになって、トークする。 いいじゃん、面白そう! 『へえ、チーズ好きなんだ~ とりあえず、なんかお互いの呼び方とか決めといた方が良くない?なんて呼べばいい?』 『うーんと、 mil、でいいかな。 そっちはなんて呼べばいい?』 『んー。 絵文字めんどいよねー』  会話が弾む。 『じゃあ、NICO、でいいかなあ』 『OK!NICO~』 『www』 『mil~、よろしく』 「…」  なんか、今、すごくドキッとした。 milって呼び捨てっていうか、下の名前 (?) 呼ばれたら、メールでもこんなに嬉しくなっちゃうもんなの?  麻美の頬は、どんどん赤らんでいった。 「めっちゃタイプだわ~」  チャイムが鳴り、 教室中の生徒が慌てて席に着いた。
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