悪夢から覚めるまで

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悪夢から覚めるまで

 僕は今日も、学校に行くのが憂鬱だった。   僕の名前は高野祐樹。 見かけは平凡な、 男子中学生だ。  僕は今まで一度もいじめといういじめを受けてきたことはなかった。 小学生の頃も、「人気者」とまではいかなくても、それなりに慕われていたと思う。まあ、あんまり目立たないしそこまで目立たないわけでもない…教室には絶対1人いるようなやつだった。  そして、みんなの笑顔に包まれて迎えた卒業式。  あれから3年。   僕はいじめというものを初めて知った。もちろんその涙と笑顔の卒業式の日、そんなことを夢に見るはずもなかった。  その時の僕の願いはただ一つ。  「中学も平凡に過ごすこと」だけだ。  あの頃も、ただ漠然とそう思っていた。 目立つこともなく、 好かれることも注目されることも、嫌われることもないように。  僕はただ、それを願っていただけなのに。 悪魔たちに会ってからは、そんな願いも散り散りになって消えていったんだ。  中学3年の夏に。  僕は、春の間はまだ、金子たちに目をつけられていなかった。いつもあんまり目立たない方で、というかまだその頃はみんな緊張感もあったけど、まあいわゆる人気者みたいな感じでは絶対なかった。  でもある日。 僕が廊下掃除当番だったために掃除をしていると、ふと教室で飼われている金魚が目に入った。 出目金の 「ふく」。 僕はしばらくふくをガラス越しにふくをこずいたり、餌を少しやったりして戯れていた。  背後に気配を感じた。なんだか、背中がとても重い。  恐る恐る振り返ると、そこには金子が立っていた。 教室の片隅にポツンと置かれた机の上にある水槽に目線を合わせて座っていた僕は、自分よりも背の小さい金子睨まれた。彼女の口角は楽しげに少し上がり、その目は冷たく光っていた。金子は僕を心底嘲笑っているようだった。道理で気配からも殺気を感じたわけだ。 「あのさあ、高野?だっけ。 何してんの?金魚とお遊びですか??」  金子に声をかけられ、背中がゾワッとした。  冷たい視線と、金子の背後にいる2人…確か早川と三浦。3人の氷よりも冷たく、ナイフよりも鋭い視線が僕のみぞおちを貫いた。 「今、掃除の時間なの知ってる?ほうき持ってんだし、さっさと掃除してよね。こっちも遊べなくなるし迷惑なんだよ。早く掃除終わらしてくんないかな?」 「あ、今…」  僕が言いかけた時、 金子がふくの泳いでいる水槽が置いてある机を、思い切り叩いた。ふくは驚いたように水槽の隅へ泳いでいった。猛烈な台パン… 「あのさあ、べらべら喋る前にその手を動かしてくんねえかな?言い訳とかどうでもいいから!」  金子の声に、賑やかだった教室がしんと静まり返った。 みんなが、僕らに注目している。  そんな中、僕はみんなの視線をこちらから外すために言った。 「わ、わかったよ。 今すぐ掃除するから。」   僕は、恥ずかしさ、というか緊張で汗がダラダラ、 心臓もバックンバックンした。  金子は、満足したように、フッと鼻で笑ってから早川たちと教室を出て行った。 「はあ…」  やっぱり、僕があの言葉を言えたのは、みんなのためなんかじゃない。 自分を守るためだったんだ。一時的な安心を手に入れようとして、金子たちに負けた。何か言っていればよかったのに…僕には、 やっぱり度胸がない。  それに、これからはあの人たちと距離を置かなければならない。また今日みたいなことになったら、ひとたまりもない。見た目的にしつこそうだし、絶対近づけないなあ、なんて思いながらほうきを手に取った。  まあ、とりあえずひとまず安心かな、と思って廊下の掃除に取り掛かった。  その後も絶対にあの人たちに近づかないように、目を合わせないように気を付けながら、というよりびくびくしながら掃除していた。  それが、悪夢の始まりだった。
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