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「ご褒美はね、物じゃないです。一緒に行って欲しいところがあるの。ここから歩いてすぐです」
「今からどっか行くの?」
「そうです。いいからついて来て!」
日茉莉は藤宮にほほえむと駆け出した。
「待って、白崎さん!」
藤宮はちゃんと日茉莉のあとを追いかけて来てくれた。
「……白崎さん。どこまで行くつもり?」
美術館を出てから歩くこと五分。
日茉莉が振り替えると、藤宮がとってもいやそうな顔でついてきていた。
「もうすぐです。この坂道を登りきったところ」
「ぼく、いやな予感がする。あんまり、そっち行きたくないんだけど……。ねえ、美術館に戻らない?」
苦笑いを浮かべる藤宮の足取りは重い。
「ねえ、白崎さん……」
日茉莉はぴたりと立ち止まった。そしてくるりと振り向くと明るい声で言った。
「美術館には戻らないです。それにもう着きました!」
藤宮はとっても渋い顔を日茉莉に向けた。
「あそこです。あの純和風の平屋の家! あれ、私の元実家。お父さんのアトリエだったんです」
「……白崎画伯の元アトリエ」
「そう。ほら、先生。もっと近づこうっ!」
「ちょ、ちょっと待って、日茉莉さん!!」
日茉莉は元実家である父のアトリエへ駆け寄って行った。
「懐かしい……!」
家は昔ながらの造りで、平屋一軒家だ。純和風の門構えと植込みの木が掘りとして家を囲む様に植えてある。日茉莉は、家の門から中庭と家の母屋の方を覗き見た。
「……あれ? すっかり荒れ果てた空き家だと思ったのに、手入れされてる?」
「そらあ、手入れもするでしょ。こんな立派なお家」
藤宮はふうっと投げやりなため息をはいた。
「先生、どう意味?」
日茉莉が首を傾げると、藤宮はすっと指を差した。
「そこにある表札、見える? ちょっと下がって見て」
日茉莉は藤宮の指す場所が見えず、言われたとおり一歩、後ろにさがった。そして日茉莉が目にしたものは……
「藤宮?!」
日茉莉は『藤宮』と刻まれた表札に近づきじっと眺めた。そのあと、藤宮を見る。
「……ここ、ぼくの家です」
「はあ!?」
日茉莉はそのまま坂から転げ落ちそうなほど、仰け反って驚いた。
「うそでしょ!? なんの冗談ですか!?」
「冗談でこんなこと言いません」
藤宮は眉尻を下げて、観念したようすだ。
「えええ!? 意味わかんないです!」
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