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「わかりました。先生の正体がヘンタイなのは内緒にしておきます。ありがとう、先生!」
頭を下げてお礼を伝えると、藤宮はふわりとやさしく笑った。
「まあ元は、僕が声をかけたせいだったからね。白崎さん早く着替えて、次の授業遅れないように」
「はい」と返事をすると、藤宮はすぐに教室から出て行った。
洗い立てのスカートに着替えた日茉莉は、いい香りに包まれて一日を過ごした。
*
「……あと、もう少し」
数日後、こつこつと地道に塗り続けた結果はちゃんと形になって現れ出していた。
絵は大まかなところは塗り終え、完成に近づいていた。だが、まだ端々で描きこみが足りない箇所があった。
日茉莉はふうっと息を吐くと、壁にあるカレンダーをちらりと見た。
――今日は金曜日。土日挟んだ月曜日が搬入日か……。どうしよう。このままじゃあ、完成品とは言えないのに。
普段学校が休みの土日は絵を描くのも休み。だけどそんな休みはいらない。日茉莉は、土日に絵を描くために学校へ来る許可を取ることにした。
「藤宮先生、お願いがあります」
美術教員室のデスクに座ってパソコン作業をしていた藤宮は、日茉莉に話しかけられ顔をあげると、すぐにふわりと笑みを浮かべた。
「土日って、先生の貴重な休みなんだよね」
日茉莉のお願いがなんなのか、藤宮にはお見とおしのようだった。
「今日中に仕上がりません。土日美術室を開けてください」
絵を間に合わせたい。
「お願いします」
日茉莉が頭を深く下げると、藤宮は困ったように笑った。
「いいよ。美術室開けてあげる。……その代わり、先生のお願いも聞いてくれる?」
「……先生の? なんですか」
首を傾げていると、藤宮はにこりとほほえんだ
「絵が入選したら、もう一度進学を考えてみること」
日茉莉は、目を大きく見開いた。
「先生、私は……」
「わかってる。考えるだけでいい。ただ、きみの親御さんにはちゃんと会わせて欲しい」
「その条件って、先生になんのメリットがあるんですか?」
藤宮のお願いが意外だった。
まだ描きあがってもいない絵が入選するとも限らないのに。と、日茉莉は戸惑った。
「メリット? あるよもちろん。僕は教師だからね」
藤宮はにこりと笑って即答した。
――先生は、どうしても私を進学させたいらしい。
「教師って、大変な仕事ですね……」
日茉莉はあきれながらふうと息を吐いた。
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