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美術教員室には他の美術教員が二人いた。呼ばれた生徒は日茉莉だけのようだった。二人の教員に会釈をして、藤宮の席に近づく。
「白崎さん、座っていいよ」
日茉莉は藤宮に促され、「失礼します」と言ってから、パソコンの前に座った。
高校美術展のホームページはすでに開かれている。
マウスを握る手にジワリと汗が滲む。入選作品の結果と書かれたタグを日茉莉は、どきどきしながらクリックした。画面をゆっくりとスクロールしていく。
白崎日茉莉の名前はすぐに見つけた。
「………あった。ありました。私の名前っ……!」
名前を見つけた瞬間、日茉莉は椅子から飛び上がるように立ちあがった。
「おめでとう。白崎さん。見て。しかも特別推励賞!」
「やったぁーーッ!」
全身がかあっと熱くなった。信じられなくて、足が震える。
日茉莉は嬉しさのあまり、そのまま藤宮に抱きついた。
「ちょっ、白崎さん、興奮し過ぎだから!」
「だって嬉しい!! 先生、本当にありがとうございました!!」
目頭が熱い。
「夢じゃないよね?!」
もう一度パソコンを見る。最初なにも言わなかった美術教員二人も立ちあがり、にこやかに拍手をしながら日茉莉に向かっておめでとうと言った。
苦労が報われた。助けてくれた人たちの顔が次々に浮かぶ。喜びが胸に詰まっていっぱいだった。
日茉莉はほほえむ藤宮と美術の先生たちを交互に見ては、嬉しい気持ちを飛び跳ねて表現した。
今まで味わったことのない達成感を日茉莉は、しばらく噛みしめた。
*
入選の結果が出た数日後、夏休みに入る直前に、高校美術展が開幕した。
土曜日には晴れ渡る青い空の下、入選者やその家族が出席して授賞式がおこなわれた。
日茉莉は家族全員が見守る中、ステージの上で表彰状とトロフィーを授与された。
「すっごく、緊張したぁ!」
「日茉莉姉、階段からこけそうになって、ヒヤヒヤした……」
妹の日和の言葉に、日茉莉は苦笑いをかえす。
「私もひやっとした。みんな来てくれて本当にありがとう」
授賞式を終えた日茉莉は、すがすがしい気持ちで満たされていた。
「日茉莉、おめでとう。よかったわね」
「……うん! お母さん、ありがとう」
日茉莉の入賞を母は誰よりも喜んでくれた。
「この度は、受賞、誠におめでとうございます」
授賞式会場の隅にいた藤宮は、頃合いを見て、日茉莉の家族と母親にあいさつをした。
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