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『入選したら親御さんに会わせる』
その約束を日茉莉は授賞式という場で果たすことができた。
「藤宮先生、日茉莉が大変、お世話になりました」
日茉莉の母親は藤宮に向かって丁寧に、深々と頭を下げた。そのようすを日茉莉はくすぐったく感じながら見つめる。
三者面談はいやだと日茉莉が言ったことで、藤宮と母親は美術館に併設されているカフェレストランで二者面談をすることにした。
面談を待っているあいだ、日茉莉と妹たちは開幕したばかりの週末でごった返す展示内を、観て回ることにした。
「ねぇちゃんの作品、本当にいいね! これ、美咲ねぇちゃんだよね? きれいー!」
「花嫁なんだけど、なんか天使というか、天女さまみたい!」
日向と弟の拓海は、日茉莉の絵を眺め、にこにこと笑っていた。
「うん、そう。天女の羽衣をイメージしたの。日向と拓海、今日は来てくれてありがとう」
姉弟は他の絵も見てくると言って、奥の展示会場へとすすんだ。日茉莉はその場に残り、自分の作品タイトルと名前、横に貼られた青いリボンと『特別推励賞』と書かれた文字を眺めて、感動に浸った。
受賞者は写真撮影を許可されている。日茉莉はいろんな角度から自分の作品を記念として写真に収めた。
「写真、撮ってあげようか?」
声をかけてきたのは藤宮だった。
「あれ? 先生もう話終わったの?」
母親も一緒かと思い、周りを探すが、日茉莉の絵の前には、日茉莉と藤宮だけしかいなかった。
「日茉莉さん、絵の横に並んで。写真、撮ってあげる」
日茉莉は藤宮にカメラを渡し、絵の横に並んだ。カメラのレンズを向けられると恥ずかしくなって思わずはにかんだ。そのまま写真を何枚か撮ってもらう。
「先生、ありがとう」
カメラを返してもらいながら日茉莉は、藤宮に頭を下げた。
「日茉莉さん、覚えてる? 絵が入選した時の、もう一つの約束」
「……はい。ちゃんと覚えています」
日茉莉は静かにほほえんだ。
「じゃあ、ちょっと今から話をしようか」
「その前に先生。入賞したご褒美をください!」
「は!?」
藤宮はみごとなくらい目を丸くした。
「教え子ががんばって特別推励賞を取ったんですよ? 先生との約束守るからその前にお祝いをください!」
「ご褒美って……今から? なにか買えってこと!?」
藤宮は困惑した顔で、頭を搔いた。あきらかに戸惑っている。日茉莉はふっと笑ってしまった。
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