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押し寄せる波のようにまた、涙がこみ上げてきてぎゅっと目を閉じる。
「白崎さん、手の力を抜いて。筆が握れなくなるよ」
藤宮は張り詰めている日茉莉の心を解こうと、冗談めかしてやさしく言った。
「日茉莉さ……、」
「っ先生! 私、……大学行きたい!」
日茉莉は目を開けると、まっすぐ藤宮の目を見て言った。
「どうすればいい? どうしたら私、大学に行けますか?」
藤宮にすがるように聞いた。
「美大に行って、絵を描きたい……」
気持ちを口にした瞬間、日茉莉の目から大粒の涙が次々に零れ落ちた。涙を拭わずに藤宮を見つめる。すると、彼は、柔らかくほほえんだ。彼の大きな手が伸びてきてそっと、日茉莉の頬に触れた。溢れた涙を丁寧に拭っていく。
「白崎さん。その言葉、ずっと待っていたよ」
藤宮はにこりと笑うと、
「任せて。きみのその願い、僕が叶えてあげる」
日茉莉の手を力強く引いた。
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