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賭ける.1
「俺のせいなのか?」
下校時別れ際に見た一翔の表情のせいで、宿題は全く進まなかった。
「やっぱり今はもっと集中できる方を……あの話の続き考えて……いやだめだ」
話の展開を考えるより今は宿題が進んでいない方が重要だ。そうだろ? 自分。
「それに、今考えてるのって使える展開なのか?」
宿題の前に書いてたストーリーがまともなものになってるか自信がなかった。
書き直すか? そう思ってそれこそが逃げなんじゃないかって自問自答した。
「関わるなって言われてもな。そんな訳にはいかないだろ」
いや、逃げたっていいはずだ。一翔が不可能な事に挑戦しようとして失敗したのだって、究極的に言えば俺のせいじゃない。俺はただ面白い話を書いただけ。読んだ読者の行動の責任まで取る必要はないはずだった。
でも……本当に?
「やっぱり明日も一翔に話しかけてみよう」
一翔の性格じゃ、きっぱり俺を拒否もできないはず。適当に餌を撒けば、結局一翔は俺の話に付き合うだろう。
「このままじゃ、気分悪すぎる」
それが結局は自分に言い訳をする為の、偽善にすぎなくとも。
でも、次の日通学路に一翔の姿はなかった。俺が教室に入ると一翔はすでに自分の席にいて、何かノートに一心不乱に書きつけていた。教室の中の全てを拒絶するように。
授業の間の休憩時間も、一翔のその行動は変わらなかった。全て拒絶。その背中が雄弁に語っていた。
そして、昼休み。やっとお出ましになった春日が俺に話しかけてきた。
「翔くん。なんで一翔に関わっているの?」
俺にはそう言われる覚悟はできていた。昼休みランチも終わって、さて話の続きを考えようかとスマホを取り出した俺の机を、クラスの一軍女子どもが囲んでいる。
「春日サン。俺は秋宮と学園祭の仕事以上には関わってないよ」
中心人物に答える。春日はすっと目を細めた。
「翔くんが一翔に話しかけたのって、学園祭の役目を決めた一昨日のホームルームより前でしょ?」
「あんな陰キャに関わって何が面白いの?」
「ゴキブリみたいなやつなのに」
取り巻きが言い募る。俺は苦笑を浮かべてみせた。
「別に俺が誰に話しかけようと、俺の勝手じゃん? それに、実際大した話もしてないし」
「ふーん。私たちを敵に回すつもりはないって?」
「ああ。それに秋宮だって仕事以上に俺に関わる気ないって言ってたぜ」
手下は無視して春日の目を見つめた。一軍女子どもは全員平均より可愛い顔してる。でも、その顔に浮かんでいるのは酷薄な笑いだった、春日以外は。
春日は何か考えるように一瞬俺から目を逸らし、肩にかかる緑の黒髪をちょっと手で梳くと、もう一度こっちに視線をぶつけてきた。
その視線。嫌な感じだった。
「まあ。止めないけどね。」
春日が言う。そして、女王様は俺に顔を近づけてきた。そして、俺の耳元でそっと囁く。
「でも、一翔は……レズだよ」
その長い髪からふわっとシャンプーの香りがした。女の匂いだった。
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