(仮題)魔女と聖女の踊る国.6

1/1
前へ
/36ページ
次へ

(仮題)魔女と聖女の踊る国.6

「ローゼル様、(わたくし)の耳飾りを拾って下さってありがとうございました」  王宮の聖女のための庭園。ローゼルは聖女ソフィアの前で、はっきりきっぱり緊張していた。  ローゼルの緊張がわかってるのか、聖女は華やかに笑っている。  数日前に拾った耳飾り……それなりの名家のお嬢様のものだったらいいな〜。と、その程度に軽く考えていたのに、まさかあれがこの国を守護する聖女様の所有物だったとは!! 「ローゼル様は勇者候補なのでしょう? このような形でお知り合いになれるとは、運命を感じますね」  二人がお茶を飲んでいるティーテーブルの周囲には薔薇が爛漫に咲き乱れ、むせかえるような甘い匂いがローゼルを包み込んでいた。  聖女の匂いだ。ローゼルはうっとりと周囲に漂う香りを吸い込んだ。  清楚なドレスに身を包んでいても、聖女の持っている色香は隠せないものだった。すらっとした首筋、形の良い胸、細くくびれた腰。高価なティーカップを持つ手は白く、形の良い指は工芸品のよう。まさに男の理想を体現したものだ。  そして、何よりも蠱惑的なのは、美しい顔に浮かんだ微笑だった。  アーモンド型の目が柔らかく細められている。聖女の笑顔は絢爛の春の、生の秘密を内包したけぶる日差しそのものだった。  ……。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加