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(仮題)魔女と聖女の踊る国.6
「ローゼル様、私の耳飾りを拾って下さってありがとうございました」
王宮の聖女のための庭園。ローゼルは聖女ソフィアの前で、はっきりきっぱり緊張していた。
ローゼルの緊張がわかってるのか、聖女は華やかに笑っている。
数日前に拾った耳飾り……それなりの名家のお嬢様のものだったらいいな〜。と、その程度に軽く考えていたのに、まさかあれがこの国を守護する聖女様の所有物だったとは!!
「ローゼル様は勇者候補なのでしょう? このような形でお知り合いになれるとは、運命を感じますね」
二人がお茶を飲んでいるティーテーブルの周囲には薔薇が爛漫に咲き乱れ、むせかえるような甘い匂いがローゼルを包み込んでいた。
聖女の匂いだ。ローゼルはうっとりと周囲に漂う香りを吸い込んだ。
清楚なドレスに身を包んでいても、聖女の持っている色香は隠せないものだった。すらっとした首筋、形の良い胸、細くくびれた腰。高価なティーカップを持つ手は白く、形の良い指は工芸品のよう。まさに男の理想を体現したものだ。
そして、何よりも蠱惑的なのは、美しい顔に浮かんだ微笑だった。
アーモンド型の目が柔らかく細められている。聖女の笑顔は絢爛の春の、生の秘密を内包したけぶる日差しそのものだった。
……。
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