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賭ける.2
「ち、違ーう!! いや、違わない、のか?」
実際問題、俺は春日の匂いに混乱していた。それをはっきり自覚していた。
思わず新作のキャラクタに属性ひっつけて文章化してしまうぐらいには。
「この調子でいけば聖女こそが悪役だな。魔女と聖女の役割を入れ替えて、話を構成すれば良さそうだ……それならヒーローの行動は……?」
必死で考えてる。
でもそれは……。
「……違うな。春日はなんであんなこと言ったんだ? 一翔が同性愛者?」
俺は、頭を切り替えてもう一つの混乱の原因を思い出す。
あの言葉は春日なりの冗談。あるいは警告、なんだろうか? 一翔に近づくなという。
それにしても、その情報は真実なのか?
「でも……同性愛者ってバレたから、一翔はイジメられ始めた?」
昨日一翔が言ってた難しい事に挑戦したって言葉、もし、自分の恋愛対象が女性だというのを友人たちに告白したっていうのがその挑戦なら……それなら、話は通じる。
別に矛盾もない。
けれど。
「実際、春日の言ってるのが嘘か本当かわかんないしな。本当だとしても、他人の恋愛対象について周りにバラすのって、礼儀に反してるんじゃなかったけ」
なんか、そういう無作法を指す言葉もあったはずだけど。しかし今は明日から一翔とどう付き合うかが問題……?
「なんで問題なんだ? 何が問題なんだ? 別に一翔の恋愛対象が俺だったってわけじゃない。一翔と話すのに一翔が同性愛者でもそれが問題になるわけないよな」
一翔=レズ。
嘘か本当かも判断できないその図式に俺は心底戸惑っていた。
明日、一翔に会ったらなんて声をかけようか?
明日は拒絶されても話しかけるつもりだったのに、その最初の言葉の準備ができない。
……。
俺はマウスを操作して、あるフォルダをひらいた。次回作を百合系の話にしようと思った時から集めていた同性愛者に関する資料だ。
そのフォルダの一番上のファイルから開いていく。けど、現実のクラスメートが同性愛者だった時の対応事例なんて、集めた情報の中にはなかった。
「あーもう。どうすればいいんだよ!」
ふと、ネットサーフィンしてる時にたまたま見つけたお悩み相談の言葉が思い出された。確かあの相談は……。
Q:「明日のパーティーにゲイだって噂の人たちが来ます。彼らにどんな声をかければ良いでしょうか?」
A:「まず、挨拶から始めてください。誰が相手でも最初はハローからでしょう?」
そうだな。どんなラベルを貼られる人物でもまず、朝、顔を見たら挨拶。基本じゃないか。
そう考えると気が軽くなった。別に一翔のある一面を知ったからってそれで全部が決まるはずないし。春日の言ったのが事実かどうかも不確かだ。全く俺は何を悩んでいたんだ?
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