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架ける.1
「秋宮。最後の確認。設問と答えの組みが合ってるか」
「あ。うん。冬麻君……えっと最初の組みが……これで……」
学園祭は準備に忙殺されるうちに光速でやって来た。学園祭の準備の間の半月、俺は何かにつけ一翔の近くにいようとした。もっとも一翔からは避けられ、逃げられてたけど。
まあな。俺の身勝手さを一翔に読まれているのかもしれないし、一翔に近づく時にこじつけた理由なんて本当に言い訳っぽかったら、一翔が逃げる口実はいくらでもあったしな。
それでも。
俺から離れれば春日にイジメられるのは明白だろう? 一翔。
あれからも、春日は俺をイジメの対象にしようとはしなかった。クラスの団結が大事な学園祭の準備期間だったからだろう。
だから、一翔は俺のそばにいれば一応は安全だって理解できたはずなのに。それでも一翔は俺を拒絶していた。
役目だっていえば拒否しないけど、それ以外の時はなるべく離れていようっていうのが丸わかりだ。そして相変わらずイジメられてた。
なんでだ?
疑問が消えないまま、俺と一翔はクイズの書かれたダンボールボードを体育館の床に置いて、最終確認をしていた。
「印、全部合ってるね」
「間違いないかな」
サルって呼ばれてるクラスのお調子者が言う。こいつと春日がクイズの司会をするんだ。春日が、問題を読み上げる係、そしてお調子者が助手。
春日はいい声してるし、立ち姿も舞台映えするから司会にはピッタリだよな。
そう思って、俺は舞台の上でマイクの確認をしている春日をチラッと見た。真剣な顔は美人の範囲に余裕で入ってて、スタイルだってかなりイケてる。それに、春日は勉強の成績だって良い。確かいつも学年五番以内をキープしてたんじゃないかな?
間違いなくクラスを支配してて、堂々としてるから、先生たちにだって気に入られている。
実際、なんで一翔をイジメてるんだろうな?
一翔がレズだから?
でも、春日ぐらいだったら、一翔の存在を視界から抹消すればいいんじゃないか?
そりゃ、クラスのみんな春日を見習って一翔を無視するかも知れないけど、積極的に悪口言ったり、暴力に近い行動したり、吊し上げなんかする必要ないんじゃないか?
なんで、あそこまで丁寧にイジメるんだろう?
「よし、これで終わりだ」
「了解。冬麻、ありがと」
お調子者でさえ、一翔には声をかけない。うっかり親しい行動したら目をつけられてイジメられるのをみんな恐れている。
「でもさ、冬麻。今度の問題、面白いの多くてクラス内でも好評だぜ。お前、いつもは目立たないから問題の候補作る役に就いた時はびっくりしたけど、意外とやるじゃん」
仕事が終わった途端、一翔はその場からさっさと逃げようとしていた。俺は、一翔に話しかけたかったけど、お調子者に引き止められる。
「ああ。難しいとか簡単とか以前に話のネタになるな」
「ボーナス問題の山の写真。あれ、ヒントに気づく奴いるかなぁ」
「本番の時、正答率どれくらいかも気になるよ」
そうして、一翔がいなくなるのと同時に、他のクラスメートも集まってくる。
「そうか? まあ、少しは考えたからな」
褒められたのに話を打ち切るのはクラスメートとの付き合い上、無理だ。俺は仕方なく、照れたような笑顔を浮かべて見せる、と。どこからともなく、夏都が現れた。
「本当だぞ、冬麻。先生だって近年にない面白い設問だって言ってたぜ」
どこか皮肉な笑みを浮かべた優等生は、俺の背中を力を込めて叩く。
少しだけ、イラついた。この問題を考えたのは一翔もだ。ていうか、ぶっちゃけ本番の問題に採用されたのは一翔の作った設問の方が多かった。だから……。
「ああ、結構秋宮が頑張ってたからな。問題の取材する時だって、正確に情報整理してたの秋宮だし」
そう言うと、その場にいたクラスメートたちが全員ガラスのかけらでも踏んだような顔をした。数人が春日の方に視線を走らせる。
「そうか、秋宮さんがね。彼女根が暗いからクラスの役に立てるなんて思ってなかったけど」
だが、夏都がにこやかに笑った。俺の言えた事じゃないが、どこかその笑いは嘘くさく。
「けれど、その秋宮さんの一面を引き出したのは、冬麻の力だよね」
そう言った目が全く笑っていない。
「そうだな。みんな秋宮に話しかけてみればいいと思うぜ。あいつ結構面白いよ」
俺は夏都に同調するふりをした。一翔の印象を変えられるチャンスだと思ったから。
「そうなんだね。学園祭の打ち上げでみんなでちょっと声をかけてみようか。ずっとハブにしてるのよくないと思ってたとこなんだよね。ね、冬麻」
そこまで夏都が言ったのに驚いた。
「ああ。秋宮も仲間に入れてやってくれよ。あいつ、いいやつだから」
でも、夏都の瞳はやっぱり全く笑ってなかった。
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