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駆ける.1
「みんなー! 僕たちのクイズ大会、体育館開催部門で『盛り上がったで賞』ゲットしたよ!」
教室に学級委員三人が駆け込んできたのは、学園祭の片付けが全て終わった時だった。
学級委員は、学園祭の閉会式に出ていたのだ。
「えー。体育館開催部門ってみんなが賞もらえるやつでしょ?」
「そんな賞じゃ喜べなーい」
「何言ってるんだ! 今年は体育館部門五つしか賞なかったんだぞ!」
「え? じゃあ何番目なんだ?」
「……五番目……」
「えーーーーー!」
教室にいた人間が一斉にブーイングする。
「でもさ。近年にない面白い着眼点の問題ですごく楽しかった、って校長先生からも褒めてもらえたし!!」
学級委員長の言葉、俺に視線が集まった。
「あの問題、大体考えたの秋宮だよ」
実際嘘じゃない。
クラスメートたちが顔を見合わせ囁き合う。
「俺、秋宮探してくるわ。秋宮を褒めてやってよ」
そう言って、俺は教室を後にした。とはいっても、一翔はどこにいるんだろう?
一翔を探して、祭りの後の校内を歩く。でも、ひっきりなしに人が行き交う校舎のどこにも一翔の姿はなかった。
「人混みとか苦手そうだからな……」
そして、俺は校舎裏の、生徒からは金魚沼って呼ばれている池にまで来た。伝説じゃあ、何十年か前の生徒がここに金魚を放し、そいつが巨大化して今や池の主とか……。
「秋宮。ここにいたのか。探したぜ」
「あ……冬麻君」
俺は、池のそばのベンチに腰掛けていた一翔に笑いかけた。
「俺たちのクイズ大会、体育館部門で賞とったって。みんな喜んでたよ」
「そっか、そうなんだ。春日さんの司会が良かったせいだね、きっと」
「設問が良かったからだよ。秋宮の作った問題が」
そう言うと、一翔は下を向いた。いまいち俺の言葉信じてないな、そんな感じだ。
「秋宮! あのクイズの問題、七問考えたの秋宮だろ!? 自信持てよ! 秋宮の設問が良かったから盛り上がったんだぜ」
「そ、そうかな……?」
「ああ、だから自信持って教室に帰ろう。春日だって、秋宮のやり遂げたことには絶対に文句つけられないから、今が味方を増やすチャンスだぞ!」
一瞬上がった顔が、もう一度下を向いた。
「別に味方なんていいよ。でも、ありがと冬麻君、わざわざ教えに来てくれて」
そして、下を向いたまま、立ち上がる。
拒絶。
その一言を全身で表して。
「秋宮!」
呼び止めるけど、一翔は早足で歩いていく。俺はその後を追いかけた。でも、最初の距離があったからか、それとも、俺が一翔に追い付くのを躊躇っているせいか、一向に追い付かない。
理科室や音楽室がある特別校舎を過ぎ、一年舎を過ぎ、桜の木が植っている中庭まで来ても、俺は一翔に追い付けなかった。でも。
中庭の入り口で一翔の足が止まった。
「あ、」
俺は声をかけようとして、様子がおかしいことに気づいた。
「秋宮?」
気を取り直して、声をかけるけど、一翔は一本の桜の木を見たまま立ち竦んでいる。
「秋宮?」
俺もそっちに視線を向け、そこに春日と夏都の姿を見つけて戸惑った。っていうか……!
告白シーンか?! 学生の本分みたいなとこに行き合うなんて。まじか!!
しばらく俺たちは呆然と、その二人の姿を眺めていた。そのうちに春日と夏都の姿がふわりと重なった。その瞬間、一翔がダッと駆け出す。
「お。おい、秋宮!!」
俺は慌てて、その後を追った。
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