翔ける.1

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翔ける.1

「秋宮さん……えーと、学園祭の問題作成、お疲れ様。秋宮さんの作った設問。評判良かったよ」 「そうだぜ。影の功労者って感じだな」  十数分後泣き疲れた一翔を連れて、俺は教室に戻った。  後夜祭に参加するらしいクラスメートが俺と一翔にわらわらと寄ってくる。その言動は割に好意的なもので、俺はほっとすると同時に疑問に思った。 「……春日サンと夏都知らないか?」 「え……あ……二人とも後夜祭のいい位置取りに行ったよ」  初デートってことか、やっぱり中庭で見たのはの告白シーンだったんだな。 「そっか」  でもさっきの春日のあの顔、なんか災害級の問題起こるんじゃないかって考えたの取り越し苦労かな? 「秋宮さんと冬麻君は一緒に後夜祭いくの?」 「いや、俺たちは帰るよ。柄じゃない。な、秋宮」 「うん。そうだね」  下を向いた一翔がボソリと答える。  確実に、一翔は魂抜けてる。なんとか現世に繋がっている精神で最大限取り繕うとはしてたけど。大丈夫かな? 「秋宮さん。学園祭休み終わったら一緒にランチとかどう?」 「え……」 「秋宮、成績いいだろ。今度数学教えてくれよ。この教室さ成績いい奴お高くて」 「う……」 「それいい考えだな! 秋宮、俺にも数学教えてよ」  俺は、クラスメートの一人の提案に乗ると、一翔のボロが出る前にさっと二人分のリュックを手に取った。 「でも今日は帰らないと。秋宮も、後夜祭には出ずにさっさと帰る。って親に言っちゃったんだろ? 途中まで送るよ」 「あ……うん」  俺は、一翔の手を引っ張って教室から離脱した。 「あ、あの! 冬麻君……もういいよ! だいぶ復活したから……だからもう私にっ!」  夜になって街灯の灯った通学路、引っ張っていた手が抵抗する。一翔は俺から逃げ出そうとして足に肩に力を入れた。 「……秋宮さん」  俺は立ち止まり、振り返った。なんか企んでいるような表情を作って、一翔を振り返った。 「もし逃げたらさっきの告白、教室中に全部バラす」  一翔の顔が一瞬で白くなった。  悪役? 仕方ないだろう。今はこう言うしかなかったんだから。  屠殺場に引かれていく子羊のような一翔を後ろに伴って、家に帰った。 「母さん、ただいま。友達連れてきた」 「お……お帰りなさい……。え!?」 「こいつ、秋宮一翔」 「お……女の子!?」 「誤解のないように先に言っとくと、こいつ好きな奴いるから。俺じゃない奴」 「ええっ!?」 「お茶とお菓子、後で取りいく。秋宮、こっちきて」 「あの……お、お邪魔します……。」  俺は、一翔を連れて二階の自分の部屋へ上がる。 「どぞ」  扉を開けて一翔を通す。一翔は玄関入った時のようにおずおずと俺の部屋に足を踏み入れた。 「下行って何か持ってくるわ。秋宮? 机のそばに段ボール箱あるよな、あの上に数学のテスト返ってきたやつ載ってるんだ。ちょっとそれ見ててくれないか。後で間違ったとこ教えてくれ」 「え……? あ、うん」  俺は一翔がA4用紙を手に取ったのを確認し、してやったりと思うとキッチンに向かった。  狙い通り、階段の一段目に足を置くのと同時に。 「え。ええ〜〜〜〜!!」  一翔のある意味での悲鳴が響いた。
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