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かける.2
「どういうことなの? 本当に一翔と付き合ってるの? 翔くんから告白した?」
「その前に、秋宮についての噂流したの春日だろ? なんでそんなことしたんだ」
「一翔から聞いてないの? 何も聞いてないの?」
春日が乾いた笑いを漏らした。俺は、拳を握りしめる。
「秋宮があんたを好きだって話か?」
「あの子がレズだって私言ったのに、そんなのなのに告白? 付き合う? 何考えてるの!?」
春日はずっと薄い笑いを顔に貼り付けてる。憎しみがその笑いの向こうに見えた。
「勇気を出して好きだって言ったのに、その相手をイジメるあんたの精神構造のほうが、俺には信じられないよ!!」
叫びが口から勝手に飛び出していった。人に聞かれたらとか、人一人にとって危ない話してるって、その瞬間、抜け落ちていた。
「翔くんはあんな奴の味方するんだ。私じゃなくて!!」
春日も叫び返してきた。その言葉何か引っ掛かって。でも、それを確かめる前に。
「一翔、私に下心持っときながら、純粋なフリして近づいてきたのよ!? 私が本音を話せるようになるまで罠仕掛けて待ってた。友達だって思ってた、なんでも話せる親友だって!
でも違った!!」
「ただ、私に対して欲望持ってただけだった! 友情も何も最初から計算して、近づいてきただけだったのに!」
「そんな薄汚い奴の味方! 翔くんはするんだ!」
教室の女王様はすっかり取り乱していた。憎しみのあまりになのか、その目に涙が光ってるのに俺を圧倒されてた。でも女王様の言葉の何かに引っ掛かってた。
「翔くんは、私なんて気にも留めなかったくせに、あんな奴の味方するんだ!」
なんだ? 何が引っ掛かってる? そう思っていたのは一瞬で、俺は次のセリフに仰天した。
「ずっと、私に振り向いてくれなかったのに、あんな奴の味方、するんだ……」
「は……?」
意味が受け止めきれない。なんだって!? 俺が春日に振り向く?
「なんで……そんな……?」
「私。翔くんが好きなの! 一年生の時からずっと好きなの!! ずっとずっと好きなのよ!!」
そのセリフ最近聞いたな……俺は一瞬思考を飛ばし、それから我に返った。
「いやいやいや、おかしいだろ!? じゃあなんで、夏都と!?」
後夜祭の時、二人はデートしてたんじゃないのか!?
「他の子と付き合えば、翔くんだって私を気にしてくれるかなって思ったの!!」
わかんねーよ、その思考! 大体、何言ってんだ? 春日が俺に気があるそぶりとかしてたか!? 全く覚えがないぜ。そんなのでいきなり好きだとか言われても……。
「そ、それなのに! 一翔と付き合うとかなんなの!? 一翔がレズだって言ったでしょ!? 一翔から、私が翔くんを好きだって話聞いてないの!?」
そうか。その時やっと気づいた。
一翔は春日が俺を好きだって知ってたから、俺から逃げたんだ。春日の気持ちを慮って。でも、あいつの信念上、春日が俺を好きだって自分からは言えないから、黙ってた、と。
だから一昨日、一翔は春日の気持ち代弁できないって言ったんだな。
あーまじでわかった。……勘弁してくれ、イジメ主導するやつなんか恋愛対象範疇外だぜ。
マジで。
でも、この場どう収めよう?
なんとかして、春日に噂を否定させなきゃいけない。それは確かだ。でも、この興奮している女王様相手にどう話せば……。
「春日サンの気持ち、秋宮が俺に話すわけないだろ。秋宮は、自分が他人の気持ちを知ってるからって、本人の了承を得ずにそれを誰かに話したりしない。それぐらい春日サンにも、」
「やめて! 一翔なんて庇わないで!!」
「事実しか言ってない! 秋宮については俺より春日サンの方がずっとずっと詳しいはずだ!」
「あんなやつを庇うんだ! レズなのに!! それでも、一翔が好きだって!!」
「秋宮の性的嗜好がどうこうじゃない! 秋宮はフラれてもあんたに誠実でいようとしてるんだぞ!? だから俺にあんたの気持ち伝えようとしなかった!! 他人がバラしていいものじゃないって知ってたから!!」
「嘘! 嘘! 嘘!! あいつはただ私よりも上に立ちたかっただけよ! 私の気持ち知っときながら翔くんに近づいた! 翔くんと仲良くなって私に復讐したかっただけ!」
「秋宮はそんな人間じゃない!! 大体、近づいたのは俺からで、」
「そんな奴じゃない!? あいつはずっと私の心に取り入るために行動してたのに!? そんな薄汚い人間なのに!? 翔くんが私よりあいつを知ってるの!?」
そこまで叫んで、春日は息を整えた。
「……あいつがいいヤツだ!? 翔くんは騙されてるんだよ!? あいつに!!」
握りしめられた拳。涙を溜めた瞳。春日は泣き笑いのような表情を浮かべ、俺の前にいた。
俺は、春日が呼吸を整えるのを待って、努めて冷静に言った。それ以外手がなかった。
「いいや、春日サン。秋宮はいいヤツだ。秋宮は俺にあんたを売り込んできたんだぜ? あんたにイジメられても、それでも俺にあんたと話してみろってそう持ちかけた。
春日サンの気持ちは秘密にして、それでも俺にあんたのいいところを沢山伝えてきた。あんたが魅力的な人間だって、言ってた。それでもあんたは秋宮を憎むのか?」
一翔がイジメられても春日の力になろうとしてたって、そう言えば少しは……。
「あんな噂流すのもうやめろよ。春日サンが秋宮を傷つけるのは、俺は嫌だ。春日サンと秋宮のどっちかを好きか嫌いとかじゃなくて、春日サンのとってる行動は俺の許容範囲じゃない」
「やっぱり一翔の味方するんだ……翔くんはっ! 私の気持ち踏み躙るってわかってても!」
「味方してるわけじゃない。ただ、イジメなんかしたってなんの意味もないって言ってる。秋宮はイジメられても、」
「知らない! あいつなんか知らない! あいつの味方しないで!!」
「味方してるから言うんじゃ、」
「許さない!」
春日が叫んだ。でも一瞬でその叫びは消え。
春日は下を向き、肩を振るわせ深淵の底から聞こえてくる唸りのような声で呻いた。
「絶対に許さない。……絶対に一翔、許さない」
「おい! 春日サン!?」
そしてそのまま、俺を置いて走り去っていった。
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