かける.3

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かける.3

 それから、三日。学校に流れる一翔の噂はさらに酷い物になっていった。二日間、一翔は耐えて学校に通っていた。でも今日、一翔の姿は教室にはなかった。 「知ってる? 駅前で秋宮さんが女の人とキスしてるとこ、見た人がいるんだって」 「それがバレそうになったから、冬麻君に恋人役頼んだんでしょ?」 「嘘……それって酷くない?」 「家にもいなくて、年上の女の人の所にいるって噂もあるみたいよ」 「冬麻君は被害者だよね」  教室内でヒソヒソと囁きが交わされる。一昨日昨日、俺は一翔の恋人役を務めようとしていたが、一翔は俺を拒絶した。  ほんの数日前に戻ったように徹底的に俺を避けていた。  そして今日。  俺はすっかり一翔の被害者扱いだった。そういうふうに噂を流しているのは多分春日。俺に必要以上のダメージを被らないようにしてるのは、春日はまだ俺が好きなのか?  俺は絶対にごめんだが。  そして一翔のいない教室。俺は孤立していた。すっかり腫れ物扱いで誰も近寄ってこない。  まあいい。このまま噂は黙殺して、教室の空気に戻ろう。俺からなんのアクションも起こさなければ、女好きの女に告白した痛い奴とは見られても、それ以上にはどんな色も付かないはず。  それでも、今日の帰り秋宮家に寄ってみよう……この状況じゃ、話が学校の中で収まるはずないし、ここまで酷い噂になるなら、実際問題として一翔の命が心配だ。  授業が行われている間も、教室の中にはどこか不穏で不安定な空気が漂っていた。それを一日やり過ごして、放課後俺は秋宮家へ向かった。 「あっと……姉ちゃんの友達の……冬麻サンだったけ?」 「うん。秋宮さんはいるかな?」  一翔弟・中学二年生。はちょっと考えてから頷く。 「上がる? 姉ちゃん昨日から部屋から出てこないんだ。姉ちゃんの先生とかも来るしさ、どうなってんの?」 「うーん。ちょっとな」  そう言って、俺は一翔弟に一翔の部屋まで案内してもらった。 「姉ちゃ〜ん。お客……彼氏?」 「秋宮。開けてくれるか?」  ドアの向こうの気配はしばしためらっているようだった。 「宿題のプリント持ってきた。開けないなら、弟さんと話、」  そこまで言った時、ノブが回された。 「冬麻君は私脅すのが上手だね」  全てを諦めたような表情で一翔が顔を覗かせた。その顔は泣き腫らし、目の下にはクマができている。着替えてない制服には皺が寄り、髪はボサボサだった。 「二遊(じゆう)ちょっと下にいてくれる?」  一翔弟がギョッとした顔をし、俺と一翔を見比べ、しばし考え、頷いた。 「お邪魔します」 「うん」  軽く挨拶して俺は一翔の部屋に入る。一翔がドアを閉めた。 「学校の噂、どうなってる? わ、私……冬麻君に迷惑かけて……」  そしてそのままドアの下にズルズルと座り込み顔を覆ってしまった。堪えきれないような啜り泣きが漏れてくる。 「なんで……迷惑だって言ってくれていいのに……なんで……?」 「秋宮。ご両親に学校の噂知られたのか? 先生が来たって聞いたけど、先生は秋宮についての噂が同性愛についてだって話した?」 「し、知らない……先生に会ってないし、昨日の夜から部屋の外に出てない……」 「秋宮」  俺は一翔のそばにしゃがみ込んだ。細い肩を掴む。 「秋宮。秋宮の恋愛対象が女子だって、今ご両親に明らかにする気はあるのか?」  一翔は激しく首を振り否定を示した。  多分そうじゃないかって思ってた。俺は秋宮家についてはよく知らないけど、こんな形で周囲に自分の性的嗜好が明らかになるのは最悪なはずだ。
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