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かける.5
<カケル様
いつもお世話になっております。
早速ですが、カケル様の著作『レジスタ王国の再生機』の漫画化決定のお知らせと
完全新作の執筆をお願いしたくご連絡差し上げました。
新作の構想を考えられておらるようですが、そのアイディアの打ち合わせをしませんか?
つきましては、ウェブ会議の日時を決めたく、ご都合の良い日にちをお知らせください。
担当より>
「は、ははは……」
なんなんだよ……これは俺の夢が叶ったって事なのか? 作家として、それなりに認められた!? 作家としてやっていく足がかりができたっていうのか!?
こんな、こんな状況で!?
「は……あ、秋宮に連絡……なんでだ!? こんな状況でできるわけないだろ!?」
学校のイジメ、全てを諦めた一翔の顔、一翔が逃げ出すしかない状況、明日はイジメられる側に転落するかもしれない自分自身。
今の状況の全てと、書き続けて、書く事で自分の居場所を得たいっていう『願い』が叶う、その入り口にいる。何かが掴める、すぐそばに『希望』がある。
それが両方同時に存在しているのに、現実感がなかった。
どちらかが幻なのか? それとも両方幻で、俺は何も持たずただ眠っているだけなのか。
今いる世界の全てがつかみどころがなかった。
グラグラと足元が揺れているようだ。
深淵がぽっかりと足元に口を開けている。
「は……はは……」
乾いた笑いしか出てこない。
そもそも今の俺に何か書けるのか?
一翔のイジメがひどくなってから、自分の創作したものから精彩が消え、言葉が鮮やかさを失っていったような気がしていた。
現実で手いっぱいで、創作の世界にまで、翼が広がっていかない。
そんな状況は初めてだった。
でも。
『カケルさんはずっと私の力になってくれた』
一翔をがっかりさせるわけにはいかない。書かなくちゃ……全てを書かなくちゃ……。と。
「翔〜。夕ご飯の準備できたわよ〜。早くいらっしゃい〜」
階下から聞こえてきた母の声は生活感に溢れ、この状況下ではなんだか酷く滑稽だった。
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