自動伴奏機器テカバー

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自動伴奏機器テカバー

「どんな曲にも自動で伴奏をつけます。  作曲した未発表の曲にも、伴奏できます。  あなたも今日から、人気音楽家の仲間入り」  そんなキャッチフレーズと共に発売されたのは、自動伴奏ボックス「リアルサウンド テカバー」。  世界各国何百万種類の音色を学習したAIが、演奏者の音色に合わせた音で、アレンジしながら伴奏してくれる。  演奏者は自分一人で演奏していても、テカバーを使えば、ビッグ・バンドと共演している気分になれた。  そして、テカバーが商品価値があると判断したら、自動で録音し、音源を音楽サイトに投稿する。  そのサイトでは、DL件数で人気も分かるようになっていると言う。  無名な演奏家にとって、演奏するだけで無駄な労力をかける事がなく、有名になれるチャンスが多くある、夢のような商品だった。  伴走者探しをするなら、一秒でも多く練習していたい、そんな演奏家には夢のアイテムだった。    ある笛吹の男がテカバーの販売サイトに辿りついた。  説明書きを読んだ上、面白そうだと笛吹の男はテカバーを購入した。 「一つの楽器しか演奏できないあなたの手をカバー、でテカバーか。面白いじゃないか」  テカバーは、2日で届いた。  早く使ってみたい男は、テカバーを取り出し、説明書も読まずに、電源を入れてテカバーを使い始めた。  演奏が失敗しても、商品価値がないとテカバーが判断するだけなので、気軽に何度も演奏した。  ビッグバンドやオーケストラを背後に演奏している気分になれ、とても心地が良かった。  何度か演奏し、笛吹の男は満足した。  これはいい出来だ。  音楽サイトに投稿されるのが楽しみだぞ。  笛吹き男は、音楽サイトへの投稿を心待ちにしていたが、笛吹男の作曲した楽器は音楽サイトには投稿されていなかった。 「いい出来映えだったのに。おかしいな。商品価値がなかったのかな」  がっかりした笛吹き男は次の楽曲をテカバーと共に演奏した。  待てど暮らせど音楽サイトには投稿されない。 「ガセかよ。投稿されてないし」  笛吹き男は悪態をついた。  気分転換に、外に出て街をブラブラする。  ふと、聞き覚えがある曲が流れてきた。  笛の音色を最大限に生かしたクラシカルな曲調は、激しいロックに変わっていた。  笛の音色は激しいギターの音にかき消され、もはや添え物にもなっていない。 「どういう事だ?」  笛吹き男は混乱した。  楽曲を流していた店舗に確認すると、店員が事もなげに答えた。 「最近人気のAIが作曲した曲を集めたダウンロードサイトの曲ですよ」 「これは、自分の曲だ!」 「いやいやいや、これはAI作曲の曲です。たまたま似たようなフレーズがあったんじゃないですか?  そもそも、うち、正規のサイトでちゃんと会費を払って購入してるんだから、問題はないはずです」  最後は少しだけムッとして、店員は笛吹き男を店舗から出した。  笛吹き男は急いで家に帰り、テカバーの説明書を丁寧に読んだ。  「この度はテカバーをご購入頂き、誠にありがとうございます」  という挨拶文から始まり、終わり頃に一際小さな文字で注釈があった。 「お客様の楽曲によっては、テカバーがより人気になれると判断した場合、大幅な編曲、曲調アレンジをすることがございます。8割以上、テカバーのアレンジが加えられた場合、その楽曲の著作権はテカバーの物といたします。  この内容をご承諾頂ける方のみ、テカバーをお使いくださるよう、お願いいたします。」  笛吹き男は、説明書を読んで崩れ落ちた。  そして理解した。  テカバーは手のカバーではない。  Take over(乗っ取り)だった、と。
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