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負け戦から一夜明け、午前11時。
いつも通りこんな遅い時間にのこのこと起きてきた長信は、これまたいつも通り冷蔵庫を漁り、母が用意してくれているであろう食事を探す。
が、見当たらない。
どれだけ探しても調理済みのものはおろか、加工食品の類でさえ何一つ入っていない。
母の置き忘れ? いや、毎日のことなのにそんなはず……。
「あぁ、今日からお前の食べる物は無いぞ」
リビングのソファーから、父の声がした。
「は? 無いってどういう……」
「仕事を見つけてくるまで、お前は飯抜きだ」
「何それ。今時兵糧攻め? 戦術が古い!」
ケラケラ笑って返した長信に、父はソファーからのっそりと起き上がって相対した。
わざとらしいほど満面の笑みに長信はようやく危機感を覚え、嫌な汗がこめかみを伝う。
「あの、父さん? 冗談だよね?」
「今すぐ職業案内所に行って、仕事に就いてこい。もしこの期に及んでグダグダ言って就かぬなら、」
「つ、就かぬなら? 何?」
「何と言ってほしい?」
優しい声色とは裏腹に、父の目はまるで笑っていない。
「えっと……『就くまで待とう』なんて、どうかなー? あはは」
誤魔化すように言った長信に、父の怒りは爆発した。
「『就かぬなら 殺してしまえ 馬鹿息子』だ! さっさと行ってこいこの馬鹿もんがー!!」
「は、はいーっ!! 行ってきますー!!!」
三日後。無事仕事が見つかり、念願の食事にありつくことができた長信。
働くなんて自分にできるはずないとずっと思い込んで生きてきたけれど、天下統一に比べたら全然楽市……じゃなくって、楽勝だと気付いたのでした。
良きかな、良きかな。
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