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「ふふ……ふひひひ……」
白く光るデスクトップの前、ぼうぼうに伸びた髪の毛の笑い声が響く。
その姿はどこかホラー映画の亡霊を彷彿させる。
佐々木はAI絵師だ。
既存のイラストや写真をAIに学習させることで、要望通りのイラストを生成できるサービスができてから、世界は一変した。
必要となる要素を入力するだけで絵が完成する。
神と呼ばれる人々に近づくことができる。
AIを使うだけで人間が描いた絵と何ら変わらないクオリティの作品を生成できるようになった。
佐々木はAIが生成した絵を自分の作品として発表している。
絵を描いている人に対して敬意がないだの見ていて気持ち悪いだのと世間からの評判はよくない。
しかし、これは進化の過程であり、避けられない道だ。
いずれにせよ、こうなっていた。
キーボードを叩く音が部屋に響く。
床には読み捨てられた大量の漫画やラノベが散らかり、壁一面に女性アイドルのポスターが張られている。
蝉の抜け殻のようにベッドに放り投げられているのは高校の制服、もう何日も通っていない。
今、佐々木は見たら死ぬ絵を集めていた。
ひと目見たら死ぬという噂のある絵だ。
しかし、どの絵も画家が謎の死を遂げたとか周囲の人に不幸が訪れたとか、実際に絵を見て死んだわけではない。
そこで、彼は考えた。
見たら死ぬと言われている絵画を集めAIに学習させれば、本当に見たら死ぬ絵が完成するのではないか。
絵の噂が実現すれば、多くの人間が恐怖に陥る。
世間から注目を集めるだけじゃない。
これまで散々バカにしてきた奴らを絵を見せるだけで殺すことができる。
AIに曰く付き絵や恐怖を覚えるイラストを集め、とにかく学習させた。
リズミカルに鳴らしていたキーボードの音と不気味な薄ら笑いが奏でる。
これでようやく、見たら死ぬ絵が完成した。
それは、言葉のすることが非常に困難でありながら、背筋が凍り、足が震えだすような絵だ。
これが彼の求めていた究極の作品だ。
薄暗い部屋に、大音量のベルが割り込んだ。
大きく体を震わせ、ゆっくりポキポキと肩と首を回す。
スライムのごとくヌルリとベッドに近づき、部屋を震わせる勢いで鳴っているその元凶の頭を思いきり叩いた。
彼が手にした目覚まし時計はしっかりと朝の七時を告げていた。
ゆっくりと体を伸ばし、締め切ったカーテンを開けた。
決壊したダムの水が如く、朝の爽やかな陽光が部屋の中へ一気に雪崩れ込んできた。
「うがァッ⁉ 目がぁ、目がぁ……!」
いくら爽やかであろうとも、パソコンの画面を見て疲れた眼にそれは劇物以外の何物でもなかった。
しばらくの間、床の上でのたうち回っていた彼の動きがぴたりと止まった。
佐々木は見たら死ぬ絵を生成した。
最初に見た彼が死んだことで、それは証明されたのだ。
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