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 奏と約束していた映画を見に来た。SFアニメの実写化で、もともとアニメが好きな奏も、CGにおおむね満足していた。 「お待たせ。パンフレット、ぎりぎりだったわ~」  両手でパンフレットを抱えて戻ってきた奏を出迎えると、彼女は、むむ、と眉間に皺を寄せた。 「菜月? 顔青いよ? 大丈夫?」  六月になり、梅雨が訪れるとともに、湿度がぐっと上がった。今日は晴れていたから気温も上がり、お気に入りのノースリーブのワンピースを着てきたのが、失敗だった。  シアター内ではブランケットを被っていたけれど、飲み物の選択に失敗した。なんでアイスティーにしてしまったのだろう。ホットココアにすればよかった。  冷えたあまり、腹痛と頭痛が複合的に襲ってくる。この後は映画館の入っているモールの中の店を見に行く予定だった。奏が楽しみにしていたから、菜月は微笑んだ。 「大丈夫」  無理矢理表情を作っていることはすぐにバレて、奏は「ほんとひどい顔してる。一度トイレで鏡見てきたら?」と気遣ってくれる。 「うん……」  アドバイス通りにトイレに行く。個室に入ると、へたりと座り込んだ。めまい、腹痛、特に下腹部。ここから推定できるのは。  下着を下ろす。そろそろだとは思っていたけれど、まさか今?  挟み込んでいたトイレットペーパーは、わずかに血で汚れていた。 「あー……」  溜息というよりも、濁点つきの唸り声が出た。生理が来た。そう自覚するだけで、しんどくなる。こうしている間にも、トイレの中の水は、赤く染まっていく。  朝はあんなに楽しかったのに、気分が底に落ちていく。  あまり長居するわけにもいかない。奏を待たせている。  菜月はウォシュレットを使おうと、壁のスイッチを見た。  ふと、その上に別の機械があることに気がついた。今まで見たことのないもの。そして、今の菜月に必要なものだった。 「アプリ……」  鞄の中から、ごそごそとスマホを出す。アプリをダウンロードして、機械にかざすと、ナプキンがひとつ、取り出し口に落ちてきた。  アプリを使って、無料で生理用品を配布する仕組み。ナプキンは生活必需品だから減税すべきだとか、すべての学校で配れだとか、生理の貧困に対する声への対応として、どこかの企業が作ったらしいもの。  は、と、乾いた笑いが零れた。個室の中から聞こえる不気味な声に、外にいる人が驚いているかもしれないが、止まらなかった。  笑いはすぐに、泣き声に変わった。  見透かされている。そう思った。貧困貧困と声高に叫んでいても、誰もがスマホを持っている。そんな矛盾点を把握されていて、利用されている。 「菜月? 大丈夫なの?」  いくら待っても出てこないから、痺れを切らした奏が、トイレの中にやってきた。泣き声を聞き、個室のドアをノックする。  大丈夫、と言いながらも、涙が止まらなかった。  ナプキンは手に入ったのに、惨めな気持ちが拭えなかった。
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